池松壮亮、『ちょっと思い出しただけ』に込めた“夜明け”への願い。伊藤沙莉は「ウィノナ・ライダーの精神を受け継いでいる人」
「伊藤沙莉さんは、ウィノナ・ライダーの精神を受け継いでいる人」
2003年に13歳にして『ラスト サムライ』で映画初出演を果たし、大学でも映画を専門的に学ぶなど、映画人としての道を真摯に歩んできた。現在31歳となり、世代を代表する俳優の一人となった池松だが、「どうやったら人々の心に届く映画を作ることができるのかとひたすら突き進むなかでは、日々挫折することもいっぱいあります」と苦笑い。
そんな時に“ちょっと思い出す”と背中を押してくれる存在は、「いっぱいありますが、まずは祖父の思い出」だと告白。「15歳くらいの時に亡くなったんですが、亡くなる前に学校帰りに一人で入院しているおじいちゃんに会いに行っていたんです。すると、当時公開を控えていた僕が出演する映画のタイトルをずっと言っていて。楽しみに待ってくれていたんだなと。15年以上経ったいまでも、見せたかったなと思うことがあります。そういった思い出を振り返ることで、人は心の挫折を乗り越えることができる。大切なことは僕がそこに物語を感じていたかどうかです」と目尻を下げる。
また本作で初共演を果たした伊藤沙莉の存在も、池松を支え、たくさんの刺激を与えてくれたという。池松は「本作は『ナイト・オン・ザ・プラネット』からDNAを受け継いでいる映画ですが、2022年に日本であの映画のウィノナ・ライダーの精神を受け継いでいる人が誰だったかと考えると、伊藤さんだったんだと思います」とにっこり。
「あの無防備さ、人から愛される力、それでいてきちんと自分の足で立っている芯の強さ。すばらしかったです。反応の素早さは、これまで出会ってきた俳優さんのなかでも、すばらしいものがありました。瞬発力も良いし、芝居のなかで一緒に遊べる軽やかさがありました。そのことは照生と葉の時間を作りあげるうえでもすごく助けられました」と称え、「伊藤さんや松居監督をはじめ、携わった皆さんと一緒に、こういう時代に映画を作ることができた。もちろんそれは皆にとって今後への力にもなりますし、そのことに対して誇りを感じます」と充実の表情を見せていた。
取材・文/成田おり枝