いしづかあつこ×藤津亮太の対談でひも解く、『グッバイ、ドン・グリーズ!』にあふれる“映画らしさ”

インタビュー

いしづかあつこ×藤津亮太の対談でひも解く、『グッバイ、ドン・グリーズ!』にあふれる“映画らしさ”

2017年に劇場版も製作された「ノーゲーム・ノーライフ」や国内外で高い評価を得た「宇宙よりも遠い場所(以下、よりもい)」をはじめ、数々の作品、そして幅広いジャンルで才能を発揮してきたアニメクリエイターのいしづかあつこ。そんな彼女が新たに監督を務めた劇場オリジナルアニメーション『グッバイ、ドン・グリーズ!』が現在公開中だ。本作の公開に合わせ、アニメ評論家の藤津亮太といしづか監督による対談が実現。本稿では、その模様を余すところなくお届けする。

いしづかあつこ監督とアニメ評論家・藤津亮太による対談が実現!
いしづかあつこ監督とアニメ評論家・藤津亮太による対談が実現!撮影/編集部

本作は、いしづか監督にとって初の劇場オリジナル作品であり、脚本も担当している。物語の舞台は関東の田舎町。そこに暮らす少年たちの奇跡のような出逢いと、彼らの生き方を一変させるひと夏の大冒険が描かれる。アニメーション制作は世界に通用する作品を作り続けてきたMADHOUSEで、キャラクターデザインにはいしづか監督と「よりもい」でもタッグを組んだ吉松孝博を迎え、これまで見たことのない映像表現が展開される新しいアニメーションが誕生した。

キャストには、「鬼滅の刃」竈門炭治郎役の花江夏樹、「進撃の巨人」エレン・イェーガー役の梶裕貴、「ハイキュー!!」日向翔陽役の村瀬歩といった実力派の3人が主人公の少年たちを演じるほか、「五等分の花嫁」中野一花役の花澤香菜らが脇を固めるなど豪華な布陣に。さらに、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(21)でも楽曲を担当した[Alexandros]が主題歌に抜擢されている。

2021年10月に開催された第34回東京国際映画祭のジャパニーズ・アニメーション部門でプログラミング・アドバイザーとして企画に携わった際、いち早く本作を絶賛していた藤津。対談では、アニメ評論家ならではの視点で本作の魅力や、いしづか監督の作家性に切り込んでいった。


【写真を見る】花江夏樹、梶裕貴、村瀬歩!実力派キャストが織りなす3人の少年による自然なわちゃわちゃ感がたまらない
【写真を見る】花江夏樹、梶裕貴、村瀬歩!実力派キャストが織りなす3人の少年による自然なわちゃわちゃ感がたまらない[c]Goodbye,DonGlees Partners

「『ドン・グリーズ』は“演出家”の映画になっている感じがしました」(藤津)

藤津亮太(以下、藤津)「本日はよろしくお願いいたします」

いしづかあつこ(以下、いしづか)「よろしくお願いします」

藤津「まず、僕のなかでいしづかさんの作品って、人に対しての目線がすごく“やさしい”という共通点があると感じていて。原作がある作品とない作品、それぞれ切り口は異なるものの、そこは一貫している印象があります」

いしづか「原作のある作品は自分のモノではなく、作品を生んだ親や作品を元々愛してくれている人がいる。なので、やっぱり気は遣っていたんですよ。その気を遣うというのは、大事に触ってきたという感覚に近くて。それが藤津さんに仰っていただいたような“やさしさ”に繋がっていたのかもしれません。『よりもい』に関しても、オリジナル作品ですが女の子を描いていたので視聴者の方たちを考えるとキャラクターに対する“やさしさ”はあって然るべきだった気がします」

農家の一人息子で、同級生たちとうまくなじめず、日々を漠然と過ごしているロウマこと鴨川朗真
農家の一人息子で、同級生たちとうまくなじめず、日々を漠然と過ごしているロウマこと鴨川朗真[c]Goodbye,DonGlees Partners

藤津「ただ、『グッバイ、ドン・グリーズ!』はこれまでの作品と比較すると変わったというか、少し尖った印象があって。“演出家”いしづかあつこの映画になっている感じがしました」

いしづか「おお…。それは自分でキャラクターを生んでいい状況かつ、本作のキャラクターが男の子だったからというのは大きかったと思います。多少の突き放しはあってもいいのかなと。劇伴の発注時にも『もっと突き放してください』とよく言っていた気がします。キャラクターの感情に寄り添って気持ちを代弁するような曲ではなく、もっと俯瞰的な楽曲にしたいとずっと話していました」

藤津「そう。僕はその突き放し具合がすごく気持ちよかったんですよ。いま、男の子が出てくるアニメっていっぱいあって、基本的にはどの作品も“やさしい”。おそらく、アニメファンの目線を踏まえたうえでの優しさでもあると思います。そういう意味で、『グッバイ、ドン・グリーズ!』の突き放し方は、“映画”だなとすごく感じました」

いしづか「確かに、“映画”を作ろうとはしていました。洋画のジュブナイルもの(ヤングアダルト向け作品)を観ていると決して少年たちを甘やかさない。今作で参考にした作品も『スタンド・バイ・ミー』はもちろん、『ウォールフラワー』や『ゾンビーワールドへようこそ』などの洋画で、特に『ゾンビーワールドへようこそ』にはかなり影響を受けています。そういう意味でも、アニメユーザーのためだけのキャラクターじゃなくて。その距離感はちょっとねらった部分があります」

地元の開業医の息子で東京の高校へ進学したトトこと御手洗北斗。しかし、医者の後継ぎであることにプレッシャーを感じている
地元の開業医の息子で東京の高校へ進学したトトこと御手洗北斗。しかし、医者の後継ぎであることにプレッシャーを感じている[c]Goodbye,DonGlees Partners

「アニメのセオリーを知らないことが、映画だと活きるのかもしれません」(いしづか)

いしづか「映画や海外ドラマが好きで、CMなどの作り手を目指していたので、私が普段思い描く映像の作り方っておそらくテレビアニメではないはずなんです。テレビアニメをほとんど知らない状態で業界に入って、必死にテレビアニメのセオリーを学び、修行しながらこれまでやってきた。だから『映画を作ってください』と言ってもらえたほうが、自分のなかにあるセオリーが出せる感覚になります。その欠点が、映画だと活かせているのかもしれません」

藤津「だから今作は、僕らアニメファンが知っているより前のいしづかさんのもともと持っていた『こういう画がすごいと思う!』という部分が強く出ているのかなと思います。テレビアニメ以上に映画は画で見せる要素が強いので、今回はそういう形で作られたのだろうと思いながら拝見していました」

いしづか「いま、藤津さんに分析されて、『なるほど、そうかもしれない』と思いました(笑)。作っている最中は作品をいかにおもしろくするかだけでいっぱいいっぱいで、“自分の作品”というラベリングがまずない。最終的にどれだけおもしろくするか、そのプレッシャーとの戦いがあります」

本名は佐久間雫で、アイスランドからロウマたちの町へやって来た謎めいた少年ドロップ
本名は佐久間雫で、アイスランドからロウマたちの町へやって来た謎めいた少年ドロップ[c]Goodbye,DonGlees Partners

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