いしづかあつこ×藤津亮太の対談でひも解く、『グッバイ、ドン・グリーズ!』にあふれる“映画らしさ”
「脚本を書いていた時は、自分のなかに男子中高生を降ろしていました(笑)」(いしづか)
藤津「やっぱり脚本作りは大変でしたか?」
いしづか「大変でした…!これまでは創作家(脚本家や原作者など)さんと一緒に相談しながら練っていましたけど、本作はまず自分で考えるしかなかったのでかなり苦しかったです。一番孤独な時間でしたね」
藤津「脚本は稿を重ねて結構変わっているんですか?」
いしづか「変わっています。ただ、メイン3人のキャラクターの立ち位置が決まってからお話自体は変わっていません。脚本もわずか二稿で決定稿となったのですが、絵コンテに入ってから、その都度手直ししていった感じです。ストーリーの間の取り方、宝物の説明の仕方…そういう細かいところは、絵コンテを描き終わるまで何度も練り直しました」
藤津「ちなみに、“ドン・グリーズ”という名前はどこからきたんですか?」
いしづか「ふと思いついたんですよ。脚本を書いていた時、イタコのように自分のなかに男子中高生を降ろしていて。道行く男子中高生を観察しながら、彼らのやっているポーズを真似してみるとか(笑)。その時、夜寝る前になぜか、『“ドン・グリーズ”だ!』と頭に思い浮かんできました」
藤津「降りてきたんですね」
いしづか「降りてきました。なので、意味は後付けなんです。その言葉が出てきたことで、書き上げたのが第二稿でした」
「語り口がすごく独特な映画だなと思いました」(藤津)
藤津「いしづか監督ご自身で脚本を書いているだけあって、強い画で話を進めようとしているところがいっぱいあるなと思っていました。段取りを省いているわけではないけど、ところどころあえて説明を省いて強い画を並べて語っている。“説明的になるだろう”という部分を外す勇気みたいなものを感じたんです。それはいままでと違うなと」
いしづか「ただの説明になってしまう要素は、ひたすら削ぎ落したかもしれないです」
藤津「特に、終盤でドロップに訪れる展開はかなり抽象的な表現ですよね」
いしづか「スタッフの間でも議論はありました。アニメユーザーのことを考えると説明するのがセオリーなのでは?と。でも、画に出すことで登場人物たちの行動する目的が変わってしまう。演出として、説明しない残酷さも必要なのではないかということで、絶対にいらないと判断し、それを貫いたんです」
藤津「その省いたところも踏まえて、語り口がすごく独特な映画だなと思いました」
いしづか「実は、よくこれでゴーサインを出してくれたなとは思っています。プロットを用意した時点で映画としてはとても良い枠組みができた自覚はあったけど、これがアニメだと思った時に、『あっ…』って(笑)。派手な展開、わかりやすい展開を用意しなければいけないのでは?と一瞬不安になりました。でも、みんながこのプロットに心から感動してくれていたから、それを信じてやり切ろうと開き直りました」
藤津「たしかに、今作はおもな登場人物が3人だけで、基本的には山の中で行方不明になったドローンを探しているお話。要素としては非常にミニマムです。けれども、切り取っているものの外側には様々な要素や大きな世界が広がっている。そこがすごくおもしろかったですね」