いしづかあつこ×藤津亮太の対談でひも解く、『グッバイ、ドン・グリーズ!』にあふれる“映画らしさ”

インタビュー

いしづかあつこ×藤津亮太の対談でひも解く、『グッバイ、ドン・グリーズ!』にあふれる“映画らしさ”

「いしづか監督が、キャラクターデザインの吉松さんの新しい扉を開いた」(藤津)

藤津「吉松さんのキャラクターデザインにもすごくおどろきました。『よりもい』の時も“NEW吉松”だったのに、今作ではさらに“NEW”になっているので」

いしづか「私は以前から、吉松さんの絵って『グッバイ、ドン・グリーズ!』のようなリアル寄りだという気がしていて。吉松さんが『HUNTER×HUNTER』に携わっていた時、マンガ的な完全デフォルメのキャラクターなのに、映像を観て『あ、人間だ!』と思ったんですよ。なんのアニメか気づかず偶然目にしたカットで、俯瞰で映っているキャラクターがすごくリアルな肉感を持っていて、すごいな!と思っていたら、後で吉松さんの手掛けられた『HUNTER×HUNTER』だったことを知って、なるほどなって(笑)」

藤津「ははは(笑)」

ドローンが見つかる勝算や計画もないまま旅立つロウマたち
ドローンが見つかる勝算や計画もないまま旅立つロウマたち[c]Goodbye,DonGlees Partners

いしづか「吉松さんに総作画監督を担当いただいた『プリンス・オブ・ストライド オルタナティブ』でも、リアルな骨格をしたキャラクターを描くほうが合っているのでは?と思っていました」

藤津「世間的にも僕個人としても、吉松さんはスタジオライブの方で、師匠が『魔神英雄伝ワタル』シリーズの作画監督をされていた芦田豊雄さんだから、デザイン力が際立つキャラクターの印象が強いと思うんですよ。今作のキャラクターデザインではいしづか監督が吉松さんの新しい扉を開いた感じがして、アニメファンとしてうれしかったというか、見ていて楽しかったです」

いしづか「よかったです!もちろん、キャラクターナイズドされたデザインが吉松さんの十八番ではあるので、そういった世界観の作品の方がもっと楽に作業していただけたかもしれません。でも、アニメ的なデフォルメをしっかり入れたうえで等身や骨格をリアルにしたデザインはすごく合っている気がします」

藤津「コミカルな表情のところなんかは、吉松さんの味が出ていると感じます。お話自体はシリアスですけど、楽しいシーンもいっぱいありますから」

いしづか「そうなんです。リアルにしようと思えばもっとリアルにもできますけど、あえて中間を取っていて。動いているとすごくコミカルに映るけど、表情の芝居を突き詰めて描くとリアルに見える。それは物語の展開に合わせてリアリティレベルを探った感じです」


課外授業で会話を交わしたのを機に、ロウマにとって憧れの存在となるチボリだが、いまは海外で生活している
課外授業で会話を交わしたのを機に、ロウマにとって憧れの存在となるチボリだが、いまは海外で生活している[c]Goodbye,DonGlees Partners

「会話の自然な間を、どれだけフィルムに落とし込めるかと考えています」(いしづか)

藤津「東京国際映画祭の時もお話したのですが、いしづかさんの手掛ける作品は毎回プレスコ(絵のない状態での収録)かと思うくらい会話の流れが自然だと感じていて。今作では、そこもより際立っている印象があったのですが、声の収録で挑戦したことはありますか?」

いしづか「いえ、やり方はいままでと変わらないと思います。ただ今作は、基本的にキャラクターが3人で固定されているので、余計に自然に映っていたのかもしれません。私のセリフの間の取り方って、編集の方に言わせると“実際に人がしゃべっている”みたいだそうです」

藤津「なるほど」

クマに遭遇したり、川に落ちたり、様々なトラブルを乗り越えながら絆を深めていく3人
クマに遭遇したり、川に落ちたり、様々なトラブルを乗り越えながら絆を深めていく3人[c]Goodbye,DonGlees Partners

いしづか「それは、文章みたいに正しい場所で句読点を打たないように意識しているんですよ。しゃべっている最中になんとなく変なとこで句読点を取る、みたいなことってあるじゃないですか?どちらかというとそうした実際のしゃべりかたでリズムを作ってしまうので、台本のテキストには文章上必要なはずの句読点があまり入っていないんです。もちろんテレビアニメだと効率良く収録を回すことも大切なので、テキストにルール通りの句読点を入れて言葉を切ってあげるパターンもあります。でも今作は、そういった文章上の区切りを考慮せずに進めている。キャストさんがその意図を全部汲んでくれたおかげで、絶妙なところでブレスが入っています」

藤津「なるほど。だからこれまで以上に会話の自然さを感じたんですね。会話の言葉を返すタイミングが、役者さんのタイミングで返している感じがしていました」

いしづか「人がしゃべっている感じを、どれだけフィルムに落とし込めるかは常に考えています。そのリズムのほうがキャラを生かしやすいと言いますか…。あるキャラクターがしゃべっている時に別のキャラクターが映ることもよくありますが、そのキャラクターがしゃべっている相手を見たまま止まっているだけになっていることが多い。それはアニメでしかあり得ない光景なので、常々そうならないような会話にしたいと思っています。画面に映るからには、必ず意味があるはず。『相手がしゃべっているあいだ、この人はなにを考えているのかな?』とか、『次はなにを言うのかな?』といったことを想像しながらシーンを組み立てています。そういった積み重ねによって、自然な間ができあがっていくのではないでしょうか」

藤津「いやあ、おもしろい。いろいろと納得のいくお話でした、本日はありがとうございました!」

いしづか「ありがとうございました!」

取材・文/阿部裕華


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