黒沢清、大島渚賞受賞の新鋭監督を大絶賛!「ここ数年の日本映画でトップクラス」

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黒沢清、大島渚賞受賞の新鋭監督を大絶賛!「ここ数年の日本映画でトップクラス」

『愛の亡霊』(78)や『戦場のメリークリスマス』(83)などの名作を世に送りだし、2013年にこの世を去った大島渚監督の名を冠し、若手映画監督を顕彰する目的で2019年に創設された「大島渚賞」。その第3回の授賞式が4日に都内で行われ、審査員を務めた黒沢清と本年の受賞者である『海辺の彼女たち』(21)の藤元明緒監督らが出席した。

坂本龍一が審査員長を務め、国内外の映画祭ディレクターやジャーナリストらの推薦によって選出された作品のなかから受賞者を決定する「大島渚賞」。劇場公開作品が3本程度しかない新人で、日本で活躍する映画監督が対象となり、第1回は『セノーテ』(19)の小田香監督が受賞。昨年行われた第2回では、審査員団の長時間に及ぶ討議の末「該当者なし」という結論が出された。

【写真を見る】「映画になにができるんだろうか」受賞の藤元監督が涙を浮かべながらスピーチ
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今回受賞を果たした藤元監督は1988年生まれの34歳。ビジュアルアーツ専門学校大阪で映画制作を学び上京し、在日ミャンマー人家族を描いた初長編監督作『僕の帰る場所』(18)は第30回東京国際映画祭「アジアの未来」部門で作品賞など国内外33の映画賞を受賞。今回の受賞作となった『海辺の彼女たち』は、ベトナムから技能実習生として来日した3人の女性の生き様が圧倒的なリアリズムと共に描かれていく。

療養中のため欠席となった坂本に代わり講評に立った黒沢は「大島渚の名にふさわしい作品とはどんなものか、挑戦的であり、社会への批判的な眼差しがあり、映画的なセンスや才能が満ちあふれていること。審査員団の価値観は一致しているのですが、それに値する作品はどれなのかとなった際には議論が白熱することが多々あります」と、今回の選考会議も困難を極めたことを明かす。

そのうえで、「僕は『海辺の彼女たち』を観た瞬間から、胸がザワザワするような不穏さを感じ、映画に吸い込まれていくような瞬間が随所にあった。ここ数年の日本映画のなかでトップクラスに値する、世界に胸を張って推薦できる一本だと思いました」と熱い賛辞を送った。

藤元監督の『海辺の彼女たち』は技能実習生として来日したベトナム人女性3人を描いた物語
藤元監督の『海辺の彼女たち』は技能実習生として来日したベトナム人女性3人を描いた物語

一方、緊張の面持ちで登壇した藤元監督は「今日この場に立っていること自体も、10年前に映画を志して上京した時から考えると想像もつかないこと。正直まだ実感が湧いていない状況です」と心境を吐露。「この一年、『海辺の彼女たち』を通して全国を回らせていただき、映画を作ることや観ることは、平和と安全、健康で成り立つものなのだと改めて実感しました。ミャンマーではクーデターが起き、映画を一緒に作ってきた仲間が捕まってしまったり、最近もウクライナでの出来事があり。映画になにができるんだろうかと考え続けた一年でした」と涙を浮かべる。

そして「映画作家としていまの時代、なにに立ち向かうのか。あまりにも立ち向かうものが強大すぎる。どうすればいいのかとすごく考えている時に、観てくれた観客の方々の映画に対する思いに触れ、本当に勇気が出ました。映画は無力じゃない。そこを信じて僕らは作っていかなければいけないし、届けていかなければならないと強く思っています。これからの作品も闇を照らす光であってほしいと願っています。優しい世界につながるような光になるような映画を、これからも仲間と共に届けていきたいなと思います」と、今後のさらなる活躍を誓った。

取材・文/久保田 和馬

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