芦田愛菜と原作者・鶴谷香央理が語り合う、『メタモルフォーゼの縁側』が体現した「好き」への想い
「自分の好きなものを誰かに伝えることは、いま私が興味あることなのかもしれません」(芦田)
――うららが雪さんから「おすすめを教えて」と訊かれるシーンがありますが、本好きの芦田さんもおすすめを訊かれることは多いと思います。誰かにおすすめする時に意識することはありますか?
芦田「実は、おすすめの本ってすごく難しいなと思っていて。読んでいる本とか、聴いている音楽は、自分自身がすごく反映されてしまうので、自分の内側を見られているような気がして、うららのように『自分を受け止めてもらえるかな?』という気持ちになると思うんです。うららがBL漫画で雪さんに受け止めてもらえたように、自分が好きなものを好きと言ってもらえたら、自分自身を肯定されるような気持ちになるのかな、と考えたりしました」
――うららと雪さんのように、好きなもので意外な人と繋がったという経験はありますか?
芦田「高校に入ってから、いろいろな世界が繋がっていくのを感じて、世界史が好きになり。たまたま同じようにハマった子がクラスにいて、世界史の話題をきっかけに話すようになり、いまでもとても仲のいい友達です。クラスメイトなので意外な人ではないけれど、そうやって好きなもので繋がれる瞬間ってあるんだなと、いま、ふと思い出しました」
鶴谷「私は漫画にも描いたのですが、コミティアに誘われて同人誌を作ったことで、新しい繋がりができました。ちょうどそのころ、漫画がうまくいってなくて、辞めてしまおうかと諦めかけていた時期。そんな時、商業のことは一旦忘れて、何も考えずに好きなことを描けばいいと言われて参加したら、たくさん友達ができました。そのなかに、バンドをやっている人がいて、アルバムのジャケットを描かせていただくなど、漫画とは全然違うお仕事をする機会にも触れることができました。コミティアに誘ってもらってよかったなと心から思っています」
芦田「すごくすてきです」
鶴谷「私にとってもうれしい出来事だったので、思わず漫画に描いちゃいました(笑)」
――うららと雪がサイン本をうれしそうに見せ合うシーンも美しくてすてきでした。ハマっている感じが出ていて、楽しんでいる様子が伝わってきました。お2人がいま、ハマっていることはありますか?
芦田「アメリカのオーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント』です。オーディションに挑む人たち、1人1人にストーリーがあって、好きなことを一生懸命発表する姿に感動します。しかもオーディションを見ているお客さんたちが、いいものにはいいと全力で拍手やエールを送る姿もとてもすてきですし、審査員の方が背中を押すような温かい言葉をかけてくれます。番組に関わるみんなが作りだす雰囲気がすごく好きで、よく観ています」
――自分の好きなものを誰かに伝える、映画にも通じるところがありますね。
芦田「確かに、テーマがつながっていますね(笑)。いま、私が興味あることなのかもしれません。鶴谷先生はなににハマっていらっしゃいますか?」
鶴谷「すごくハマってるまではいかないかもしれないけれど、お皿です。きっかけは、祖母が亡くなった時に、大切にしていたお皿を受け取ったこと。そのお皿がすごくすてきで、自分が作った簡単な料理でも美味しく見えたんです。お皿に合わせて料理を作るのもすごく楽しいです。いままでは料理の写真を撮ることもなかったのですが、お皿に興味がでてからは写真を撮るようにもなりました。そしてお皿には作った人の性格が出る気がして、いろいろと調べたり、窯元に足を運んだりして…」
――結構、ハマっていらっしゃいますね(笑)
鶴谷「窯元が集まって集落になっている場所は、窯元を訪れるだけでなく、お散歩をする楽しさも味わえます。作り手が見えるようなお皿を集めるのも楽しくて。不器用なのでどうなるかわからないけれど、いつか自分でも作りたくなるのかな、なんて思っています」
芦田「いつか作っていただきたいです」
――それを漫画にしていただきたいです。
鶴谷「ホントですか?」
芦田「すごく読みたいです。やっぱり人の手で作られたものには、その人の気持ちや想いが宿ると聞くので、すてきな世界だなと思います」
取材・文/タナカシノブ