黒沢清が語る、40周年『E.T.』の色褪せない感動「“最新作”と思って観てほしい」
2022年に公開から40周年のアニバーサリー・イヤーを迎えたスティーヴン・スピルバーグ監督の不朽の名作『E.T.』(82)。MOVIE WALKER PRESSでは、公開当時に世界中で一大ブームを巻き起こし、時代を超えて愛され続ける本作を、年末までの長期特集で改めて検証。40周年を記念して発売される公式グッズやイベントなどの最新情報を紹介しながら、多くの映画ファンの心を掴んで離さない魅力に迫っていく!
地球に取り残された宇宙人E.T.と孤独な少年エリオットが出会い、心を通わせていくさまを描く『E.T.』。ジョン・ウィリアムズが手掛けた有名なテーマ音楽と、煌々と輝く月の前を飛翔する自転車のシルエットは、いまも“映画”を象徴する一つのアイコンとして受け継がれており、本編を鑑賞したことがない人でも容易に思い浮かべることができるだろう。
1982年当時には、『スター・ウォーズ』(77)の記録を抜いて全世界興収新記録を樹立し、同年末に公開された日本でも大ヒット。『もののけ姫』(97)に抜かれるまで、実に15年にもわたって日本興収歴代1位を守り続けた。
「真似しようと思ってもうまくいかない」黒沢清が『E.T.』から受けた“衝撃”
『CURE』(97)、『回路』(01)、『トウキョウソナタ』(08)などの名作で映画ファンを虜にし、一昨年には『スパイの妻 劇場版』(20)でヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)に輝いた日本映画界の巨匠、黒沢清も本作に魅了された一人だ。
リアルタイムでその衝撃と感動を味わった黒沢は、当時をこう振り返る。「あの頃は、アメリカ映画が変わろうとしていた時代。退屈な日常のなかに映画の娯楽性をどのように持ち込めるかを、多くの作品が目指していた時代でした。そのなかで突出していたのが『E.T.』です。スピルバーグ監督はこの前々作の『未知との遭遇』ですでに宇宙人との遭遇というテーマを扱っていましたが、真逆のアプローチで描いていたことにただただ、驚かされました」と振り返る。
その“驚き”の正体について、黒沢は本作を「完璧に作りあげられた、“閉じた世界”」であると表現する。「限られた場所と登場人物しか出てこない小さな舞台設定のなかに、宇宙人という世界中や社会全体を揺るがしかねない大きなアイデアを入れ込みながら、あえてそこだけで完結する物語を構築していく。それが大いなるサスペンスやスペクタクルを生むということを、まざまざと証明したように思えます」。
ホームドラマと錯覚するような小さな範囲のドラマを彩るのは、ウィリアムズの壮大なオーケストレーションや思い切った大人たちの描き方、クライマックスでエリオットたちと共に空を飛ぶ少年たちの鮮烈なイメージだ。「『未知との遭遇』の時はあやふやだった日常の境目をあえて作り、そのなかだけで語っていく。ここまで限られた範囲で物語を構築できるんだと、非常に参考になり、大いに勇気づけられました。もちろん、真似してみようと思ってもそう簡単にできることではないのです」と、スピルバーグ監督の手腕を称賛する。
そして本作と、その数年後にスピルバーグ製作総指揮のもとロバート・ゼメキス監督がメガホンをとった「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズが、後々作られる多くの映画や物語に絶大な影響を与えたと推察する。「近年流行する作品では、タイムスリップや人々の入れ替わりであったり、とてつもなく大きなことに発展しかねない出来事を通して友情や家族の絆、男女の淡い恋心などの個人的な感情を語るのが流行になっていますね。ものすごく大きな装置のなかで、ものすごく小さなドラマを語っていく。現在の日本の青春映画やアニメーション作品の原点は『E.T.』にあったと言えるでしょう」。