『劇場版スタァライト』古川知宏監督が語る、『ハケンアニメ!』の見どころ「“表現”が詰まった、スピード感ある作品」
「気分転換したことで、“ほらね”と言われるのは怖いです」(古川)
藤津「吉岡さん演じる瞳、中村さん演じる王子という2人の監督、柄本さん演じる行城と尾野さん演じる有科ら敏腕プロデューサーの2人。気になったキャラクターはいますか?実際にアニメ業界に行城や有科のようなプロデューサーはいるのでしょうか」
古川「柄本さんという役者込みで好きなのは行城プロデューサーです。“僕のそばにもいてほしい”と思いました。有科さんのようなプロデューサーも実際にいます。僕の経験でも、守ってもらったと感じる瞬間は何度もありましたし、とてもありがたかったです。
作品は結局、観てもらわないと広がっていきません。出来上がってもスクリーンの段階で止まってしまうことはよくあります。クチコミを含めて誰にどうやって観てもらうかを行城プロデューサーはしっかりと意識しています。僕の場合で言うと『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』はブシロードさんがその立場にいます。どうにかしてたくさんの方に観てもらおうと最初からがんばってくれたのは、すごくうれしかったです。そういう部分で、“似たような経験をしている”と感じました」
藤津「実際に似たような方がいるとのことですが、プロデューサーにリアリティはありましたか?」
古川「宣伝畑から来ました、という描写がありましたが、アニメ業界ってそんなに大企業じゃない、とは思いました(笑)。ただ、クリエイティブという面においては、こういった人たちの気持ちとすれ違う瞬間が何度もあったことは事実です」
藤津「ある種、(プロデューサーの)典型みたいなものをギュッと凝縮した感じなのでしょうか?」
古川「そうですね。僕ものたうち回っていますが、プロデューサーも会社と予算と自分の作りたいものにギューっと挟まれてのたうち回っていると思います。それを濃縮した感じだと思いました」
藤津「斎藤監督、王子監督は同業者としてどう思いましいたか?」
古川「斎藤監督のファーストショットで、効果音を口にしながら絵コンテを描いているシーンがあります。あれ、みんなやっています(笑)」
藤津「あるあるなのですね」
古川「あるあるです。家で一人で作業していたら確実にやります。僕は、会社でみんながいるフロアでやっている人と遭遇したことがあります。遠くから念仏のような声が聞こえてくるなと思ったら、セリフの秒数を確認していたという(笑)。誰かがいると小声でやるものだけど、やっぱり実際に声に出してみないと、本当に頭のなかのイメージ通りの表現ができるのか分からないですから。あのシーンから、本当に(作品として)形にしたいという(斎藤監督の)情熱が伝わってきます」
藤津「王子監督のように、追い詰められて姿を消しちゃう、逃げちゃう人っているのでしょうか…」
古川「実際に消えちゃう人…はほぼいないけれど、本当に消えちゃった人は知っています。王子監督のモデルと言われている方、僕が師事した方とも言われていますが(笑)、あの人は消えない人です。つかまらなくなったというのは、何人か聞いたことはありますね。ない話ではないです。
王子監督は実際に逃げていなくて、逃げたフリをしているわけですが、あのときに“どこかで気分転換なんてできるわけない。机に向かっていることでしか(作品作りは)やれないんだ”といったことを言います。あれはすごく共感できるセリフでした。僕も気分転換できたらいいのですが、上手にできないので」
藤津「机でうなって絞り出すしかない?」
古川「あくまで僕の感想ですが、もし、あのとき、本当に王子監督が本当に逃亡していたら…。あとで振り返ったときに、気分転換に出てしまった自分を許せなくなると思うんです。僕が気分転換をせず、逃亡もせず、机に向かっているのは、怖いから。作品が完成しなかったことを想像したら、怖いから気分転換なんてできません。しがみつくことで、アニメーション業界でなにかものを作るという場所、その一端に指をかけていられると感じられます。ギリギリにいられる感じがして、僕は机に向かいます。本当は、上手に気分転換できるのが一番だけど、気分転換したことで、“ほらね”と言われるのは怖いです」
藤津「頑張ってなにもできなかった時と、気分転換してなにもできあがらなかった時では、自分へのダメージが違いますよね」
古川「まったく違います。でも、気分転換できるのが一番いいとは思っています(笑)」