60歳を迎え、キャリア最高の輝きを放つトム・クルーズが『トップガン マーヴェリック』で見せる現在進行形
『M:i』シリーズでのスタントは映画史に残る“伝説“に
「ミッション:インポッシブル」シリーズでのトム・クルーズの数々のスタントは映画史に残る“伝説”となった。シリーズ4作目の『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11)では、ドバイのランドマークで、地上828メートルという世界一の超高層ビル、ブルジュ・ハリファの外壁を昇り、宙吊りとなるシーンに挑戦。その後、ビルの天辺の、人がやっと一人立てる場所で記念撮影まで行い、世界中を驚かせた。
5作目の『ミッション:インポッシブル/ローグネイション』(15)では離陸寸前の軍用機にしがみつき、そのまま時速400キロで、地上1524メートルの上空まで飛んで行くという、まさに命がけのスタントにもチャレンジ。トムの辞書に“限界”という言葉はないわけだが、観客にとってはCGではなく、実写のリアルなアクションであることで、興奮と衝撃、さらに感動が倍増される。その点にトムがこだわっているのは明らかで、自ら体を張ることが作品をアピールし、人々に勇気を与えると信じているのだろう。
イーサン・ハント、マーヴェリックという超当たり役を獲得し、出演作の興行収入は全世界で100億ドルを突破。トム・クルーズの俳優人生はパーフェクトのようでもあるが、その人生にはさまざまな困難や問題もあった。幼い頃から文章を読むことに障害のある失読症で、それを必死に克服した話は有名。3回の結婚・離婚歴があり(相手はミミ・ロジャース、ニコール・キッドマン、ケイティ・ホームズと、すべて同業者)、私生活で安らぎを得られたとは言い難い。また、2005年のテレビ番組「オプラ・ウィンフリー・ショー」では、当時の恋人、ケイティ・ホームズへの感情が爆発し、ソファの上でジャンプするという“奇行”が波紋を呼び、多くのパロディが生まれたりも。そして宗教哲学、サイエントロジーの熱心な実践者であることも何かと話題にされてきた。
しかし、酸いも甘いも経験したスターだからこそ、ひとりひとりのファンへの思いも深く、レッドカーペットでは延々とサインや記念撮影に応じるトムの姿に、計算ずくではない人間としての彼の魅力が垣間見えるのも事実。俳優だけでなくプロデューサーとしても有能な彼は、『トップガン』の続編がいつ、どのように製作されれば最高の作品になるのかも、本能的に見極めていたのではないか。
本日60歳=還暦を迎えたトム・クルーズだが、さらなる進化を全世界が期待する。『トップガン マーヴェリック』は、その事実を改めて証明したのだ。
文/斉藤博昭