南沙良、ミニシアターを巡る Vol.24 新文芸坐(後編)

コラム

南沙良、ミニシアターを巡る Vol.24 新文芸坐(後編)

「DVD&動画配信でーた」と連動した連載「彗星のごとく現れる予期せぬトキメキに自由を奪われたいっ」では、私、南沙良がミニシアターを巡り、その劇場の魅力や特徴をみなさんにお伝えします。第24回は池袋にある「新文芸坐」さん。マネージャーの花俟良王さんとの対談の模様をお届けします!

【写真を見る】南沙良が新文芸坐の魅力を紹介!館内での貴重な撮り下ろし写真も
【写真を見る】南沙良が新文芸坐の魅力を紹介!館内での貴重な撮り下ろし写真も撮影/杉映貴子 スタイリング/道券芳恵 ヘアメイク/藤尾明日香 

「うちの劇場は、ごった煮の精神で行きます!」

南「新文芸坐さんはいわゆる名画座、昔の映画を上映する館ですよね。この取材中にも、溝口健二監督の『殘菊物語』が上映されています」

花俟「ただ、同じ名画座でも作品カラーは様々なんです。たとえば、過去に南さんが行かれた早稲田松竹さんは若い人がメインの客層なので、比較的おしゃれな作品セレクト。飯田橋のギンレイホールさんもまた違います。うちは元々2つのスクリーンで洋画と邦画をやっていて、それが一つになったという経緯がありますから、『なんでもやろう』『ごった煮でいいや』という精神ですね」

南「ごった煮というと?」

花俟「以前、ウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』と2本立てでやろうとしたんですが、ぱっと思いつく併映作品は、ことごとくほかの劇場さんでやられちゃってたんです。それで韓国映画『猟奇的な彼女』にしました。

南「その2本に共通点は…」

花俟「全然ないです(笑)。しかもTwitterでは『センスがなさすぎる』ってめちゃくちゃ叩かれました。ただ、おしゃれなウェスファンが『はじめて韓国映画を観ました!』とか、韓国映画ファンが初めてウェスの映画を観て『すごい、こんなおしゃれな映画があるんですね!』なんて反応もありまして、これはいいなと。俺はこれで行くぞ!と決意しました」

南「俺はこれで行く(笑)」

花俟「広がりと深みのどちらを取るかという話なんですよ。ジャンルやテーマが近い作品同士の2本立てなら“深み”の追求ですが、うちは“広がり”で行こうと。2本立ての醍醐味って、お目当てじゃない方の作品をたまたま観てしまったときの衝撃じゃないですか。予期せぬ交通事故みたいなもので。出合い頭にドーン!なんだこれ?ってなにかが目覚めちゃう。そういう意図せぬ出合いを提供していけるのが、名画座の役割だなと」

「画質&音響にこだわった4Kとフィルム上映、両刀遣いが一番の売りです」

撮影/杉映貴子


南「古い歴史のある館ですよね」

花俟「1948年に池袋のグリーン大通りに人世坐という館ができたんですが、その姉妹館として1955年にできたのが前身の文芸坐です。芝居小屋も一緒になっている建物で、僕も学生時代によく行っていました。その文芸坐が2000年に建て替わって新文芸坐になったんです。それから20年以上経ち、建物もくたびれてきたので、この4月にリニューアルに踏み切りました」

南「ロビーはものすごく綺麗になっていますが、新しくなったのは見た目だけではないんですよね」

花俟「映写装置がすごいことになってるんですよ。4Kレーザープロジェクター。名画座としては珍しいんです」

南「そうなんですか」

花俟「通常、昔の映画をかける名画座はフィルム上映ができることを売りにしますが、画質や音響は売りにしていません。一方、シネコンは逆で、画質や音響が売りですがフィルム映写はできません」

南「そうか、新文芸坐は名画座なのにフィルム上映も4K高画質での上映もできるんですね」

花俟「はい、両方できるようになりました。先日『地獄の黙示録』をかけたんですが、お客様から『過去イチ良かった』というお墨付きもいただきましたよ」

「湿度やお客様の入り具合、お客様の服装によっても音は変わってきます」

撮影/杉映貴子

南「音響も独自のシステムだと聞きました。そもそも“独自”ってどういうことでしょうか?」

花俟「通常、映画館の音響というのは、音響機材のメーカーさんが既存の装置を設置するものなんですけど、うちはメーカーさんと一緒に設計からやったんです」

南「劇場の構造に合う音響をオーダーメイドで作ったんですか?」

花俟「構造に合うというより、もっと上を行っちゃいました。オーバースペックというか。すごすぎて、戸惑ってます(笑)」

南「ははは(笑)」

花俟「テストで『ジョン・ウィック』をかけたら、ウーファー(低音を出すスピーカー)の音圧でスクリーンが揺れちゃったんです。それで設置位置を変えました」

南「どうして既存のものを使わないで、わざわざお金をかけて独自のシステムを組んだんですか?」

花俟「うちは新文芸坐になってからの22年間で、お客様と共に音を“育てて”きたという自負があるんです。でもリニューアルで機材を変えなきゃいけなくなり、また一から音をやり直すなら、そのお客様にご満足してもらうものでないと。なんなら前の音を超えていかなければ、という使命感があったんです」

南「耳の肥えたお客様が多いんですね」

花俟「でも、まだまだ音は“硬い”んですよ。まだ馴染んでない」

南「硬い?なんだか生ものみたいですね」

花俟「まさに。当日の湿度、お客様の入り具合、客席のお客様の服装によっても音は変わってきますからね」

南「そんなに微妙なんですか!?」

花俟「ええ。だから映画が始まったら、映写技師がちゃんと自分の耳で『いま、どんな音が鳴っているか」を毎回確認しています。なかなか手間がかかるんですよ」

南「すごい…」

「ミニシアターも時代にすり寄っていかなければ…」

撮影/杉映貴子

花俟「リニューアルでようやくチケット予約システムが完備されました。いままでは当日券だけだったんですが、全上映が全席指定になったんです。当日券だけだと早めに来て待ってなきゃいけないですし、満席の可能性もある。ひとえに、若い方も名画座に来ていただきたくて。南さんみたいに若い方は皆さんネット予約ですよね?」

南「いえ、実は私、後先考えずに劇場に来ちゃいます(笑)」

花俟「それはそれで、ありがたいお客様です」

南「当日寝坊するかもしれないし、雨が降っていたら出かけたくないので(笑)」

花俟「たしかに、お年寄りは悪天候だと来られない方が多いです」

南「お年寄り…(笑)」

花俟「すみません(笑)。うちは2本立ても売りなんですが、1日のなかで任意の回を自由に組み合わせてネット予約できるようにもしたんです」

南「ええと、つまり朝の回のAという作品のあと、夜の回のBという作品を観てもいい。その間劇場を出て外出してもいい、ということですね」

花俟「そうです。このご時世、みんな分単位で動いてるのに、2本立てを連続で観たら5時間も6時間も拘束されてしまいます。YouTube動画なんて数分なのに。私たちも時代にすり寄っていかなきゃ」

南「すり寄って(笑)」

花俟「当たり前ですけど、映画館で観る映画とスマホで観る動画は絶対に違いますから」

南「それはもう、全然違いますよね。私、B級サメ映画が好きなんですけど…」

花俟「『シャークネード』とか?」

南「大好きです!」

花俟「サメ映画って、なかなか劇場公開されないんですよね」

南「そうなんです! 私はスクリーンで観たいのに」

花俟「第一次サメ映画ブームのときにオールナイト上映で特集をやろうと思ったんですけど、一晩中サメはきついかなと思ってやめました」

南「えー、私は一晩中でも大歓迎ですよ!」

花俟「南さんみたいな方がたくさんいれば、企画が実現するんですが(笑)」

●新文芸坐
公式サイト https://www.shin-bungeiza.com/
住所 東京都豊島区東池袋1-43-5マルハン池袋ビル3F
電話 03-3971-9422
最寄駅 池袋駅

●南沙良 プロフィール
2002年6月11日生まれ、東京都出身。第18回ニコラモデルオーディションのグランプリを受賞、その後同誌専属モデルを務める。
女優としては、映画『幼な子われらに生まれ』(17)に出演し、デビュー作ながらも、報知映画賞、ブルーリボン賞・新人賞にノミネート。2018年公開の映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)では映画初主演ながらも、第43回報知映画賞・新人賞、第61回ブルーリボン賞・新人賞、第33回高崎映画祭・最優秀新人女優賞、第28回日本映画批評家大賞・新人女優賞を受賞し、その演技力が業界関係者から高く評価される。2021年には、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021のニューウェーブアワードを受賞。
最近の主な出演作に『ゾッキ』(21)、『彼女』(21)、『女子高生に殺されたい』(22)、MIRRORLIAR FILMS Season3『沙良ちゃんの休日』(22)、TBSドラマ「ドラゴン桜」、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」など。待機作に『この子は邪悪』(9月1日公開)などがある。
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