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南沙良、ミニシアターを巡る Vol.24 新文芸坐(後編)

コラム

南沙良、ミニシアターを巡る Vol.24 新文芸坐(後編)

「若い人にも昔の名作を楽しんでもらいたくて、MCをはじめました」

撮影/杉映貴子

南「オールナイト上映は新文芸坐さんの名物ですよね」

花俟「かっこつけて言うと“シェルター”なんですよ」

南「シェルター?」

花俟「ヘビーな現実から逃れて来る場所、それがオールナイト上映です。ここで映画を観て、なにかを感じ取って帰ってほしい。なにかいいバイブスみたいなものを提供できればいいなって。僕自身も映画によって人生が変わった人間ですから」

南「そうだ、オールナイト上映での花俟さんのMCがすごくおもしろいと小耳に挟みました」

花俟「恐縮です(笑)」

南「どんなMCを?」

花俟「若いライト層に向けてやってるんです。この監督さんはほかにこういう作品を撮ってますよ。気になったらこっちでも観てみたらいかがでしょうか? といったことを話すようにしています」

南「親切ですね」

花俟「難解な映画なら、このシーンだけ注目しておくと理解しやすいかもしれませんよ、とか。せっかく興味をもって来てくれた若いライト層が、なんかよくわかんなかったな…で終わったらもったいないじゃないですか」

南「それ、すごくいいことだと思います。なによりおもしろいですし、映画が身近に感じられます」

花俟「ただ、このMCには賛否両論あるんです。そんなこととっくに知ってるよ、というシネフィルおじさんもいらっしゃいますし」

南「シネフィルおじさん(笑)。たしかに、ただ者ではないお客様が多そうですよね」

花俟「そういう筋金入りの映画ファンももちろん大事ですが、彼らだけを相手にしていては先がない。若い世代にどう伝えていけばいいのかは、常に試行錯誤しています」

南「大事なことですよね」

花俟「南さんは、難しい映画に出合ったことはありますか?」

南「ありますが、大体忘れてしまいます。ちゃんとわかりたいなとは思うんですが、調べるのが億劫で…」

花俟「それでいいと思うんですよ。わからなかったな、ということを心のどこかに留めたまま、立ち止まらずどんどん観る。そうやって種を撒いておく。10年後、20年後に『そういえば、あの映画ってこういうことだったんだ!』と理解できる瞬間がきっと訪れます」

南「そういうものなんですか?」

花俟「私にとっては成瀬巳喜男監督の『浮雲』がそうでした。男女の腐れ縁を描いた超名作と言われていると聞いて、20歳くらいの時に観たんですが、良さがさっぱりわからない(笑)。なんでこれが名作なんだろうって。だけど30歳手前くらいで観直して、これはすごいんだなと少しわかりました。40代でさらに観直したら、『これは紛れもない名作だ!』と」

南「へえーーー!」

花俟「あと、昔の邦画はお金のかけ方がいまと全然違うんですよ。『浮雲』には男女が伊香保の石畳の温泉街を歩くシーンがあるんですけど、実はこれ全部セットなんです」

南「セット!?石畳もですか?」

花俟「そうなんです。でね、こういう情報があると、このセットをデザインした人は誰だろうとか、この素敵なショットは誰が撮ったんだろうって考えるじゃないですか。そうやってアンテナを張り巡らせていくと、どんどん映画がおもしろくなると思うんです。オールナイトのMCでは、そういう役に立つちょっとしたアドバイスができればなと」

南「たしかに、それなら昔の映画もとっつきやすくなりますよね」

「職人監督の現場経験は大きな財産になると思います」

撮影/杉映貴子


花俟「南さんは『彼女』の廣木隆一監督とか『女子高生に殺されたい』の城定秀夫監督といった、いわゆる職人監督さんとお仕事されているじゃないですか。それってすばらしいことですよね。ああいった昔ながらの映画の作り方、昔ながらの現場の空気を体験しているかしていないかで、女優さんとしてのこれからが全然違ってくると思うんです」

南「本当ですか。うれしいです…」

花俟「職人さんが作った映画と作家さんが作った映画は違いますからね。作家さん的な新しい才能ももちろん大事ですが、プログラムピクチャー的なものを注文どおり的確に作る職人監督さんの映画を経験されるのは、すごく有益じゃないかなあと。南さん、時代劇もやられてますよね?」

南「はい。『居眠り磐音』や『鎌倉殿の13人』でやらせてもらっています」

南「時代劇ってお金がかかるから、絶滅寸前なんですよ。演じるほうも観るほうも、知ってる方がどんどん減っていますし。だからこそ、南さんみたいな若い方が時代劇の現場をご存知だというのはとても意義がある。偉そうな言い方で申し訳ないんですが、ぜひ糧にしていただきたいです」

南「すごく、ありがたいです」

花俟「なんか、映画業界の未来を背負わせるみたいな言い方ですみません(笑)」

「一番の思い出は『俺、マシュー・マコノヒー』」

撮影/杉映貴子

南「最後に、過去に劇場で起こったハプニングや事件があれば教えていただけますか?」

花俟「僕、マシュー・マコノヒーが大好きなんです。彼はまだあまりメジャーじゃないころ、すぐ上半身裸になるので“シャツレス俳優”って呼ばれてたんですよ。で、それおもしろいよねってアルバイトのスタッフと盛り上がって、オールナイト上映を組むことになったんです。タイトルは『俺、マシュー・マコノヒー』。それでチラシを作って告知したら、衛星放送のチャンネルの方が『そのタイトルを新文芸坐のクレジット入りで番組に使わせてほしい』と。もちろん二つ返事でOKしました」

南「ふむふむ…」

花俟「その番宣放送を観ていたら、なんと最後にマシュー・マコノヒー本人が登場して『俺、マコノヒー!』って言ったんですよ。日本語で(笑)」

南「えーーー!」

花俟「この雑然とした事務所で、アルバイトの子と僕で考えたタイトルを、マシュー・マコノヒー本人が言ってる…すごく感動しました。本人に届いたんだと。これ、ただの自慢ですが(笑)」

南「すごく、いいお話です!」

 南沙良直筆の地図
南沙良直筆の地図

取材・文/稲田豊史

●新文芸坐
公式サイト https://www.shin-bungeiza.com/
住所 東京都豊島区東池袋1-43-5マルハン池袋ビル3F
電話 03-3971-9422
最寄駅 池袋駅

●南沙良 プロフィール
2002年6月11日生まれ、東京都出身。第18回ニコラモデルオーディションのグランプリを受賞、その後同誌専属モデルを務める。
女優としては、映画『幼な子われらに生まれ』(17)に出演し、デビュー作ながらも、報知映画賞、ブルーリボン賞・新人賞にノミネート。2018年公開の映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)では映画初主演ながらも、第43回報知映画賞・新人賞、第61回ブルーリボン賞・新人賞、第33回高崎映画祭・最優秀新人女優賞、第28回日本映画批評家大賞・新人女優賞を受賞し、その演技力が業界関係者から高く評価される。2021年には、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2021のニューウェーブアワードを受賞。
最近の主な出演作に『ゾッキ』(21)、『彼女』(21)、『女子高生に殺されたい』(22)、MIRRORLIAR FILMS Season3『沙良ちゃんの休日』(22)、TBSドラマ「ドラゴン桜」、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」など。待機作に『この子は邪悪』(9月1日公開)などがある。
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