ロン・ハワード監督&ヴィゴ・モーテンセンらタイ洞窟の救出劇『13人の命』チームが明かした、潜水撮影の舞台裏
2018年6月、タイ北部のミャンマーとラオス国境近くにある洞窟に12人のサッカー少年とコーチが閉じ込められた、タムルアン洞窟の遭難事故を覚えているだろうか。入り組んだ形状の洞窟に豪雨によって増えた水が流れ込み、13人は洞窟内に閉じ込められてしまった。彼らを救出するために世界中から100人以上のボランティアが集まり、約2週間をかけて全員を救出している。ロン・ハワード監督が映画化した『13人の命』が8月5日よりPrime Videoで独占配信中だ。
本作では、なかでも洞窟ダイバーたちの決死の行動にフォーカスし、結果を知っていても神経を擦り減らすような救出劇が描かれている。ダイバー役を演じるのはヴィゴ・モーテンセンとコリン・ファレル、そしてジョエル・エドガートン。容赦無く降り続く豪雨と、決断を迷う間にも過ぎていく時間、懸命な祈りをささげる家族の姿を、まるでドキュメンタリーのようなカメラが追う。
「今年観た映画で最も偉大なスーパーヒーロー映画だと思いました」(サハジャック・ブーンタナキット)
Prime Videoでの配信を前に、監督とキャストが揃った記者会見がロサンゼルスで行われた。ロン・ハワード監督は、「緊迫した状況におけるターニング・ポイントや挑戦、それらを乗り越える状況を中心に描きました。その時によく引き合いに出したのが、『アポロ13』で酸素システムを復旧させるために取った行動です。あれも事実に基づいた映画でしたが、『13人の命』ではダイバーたちの英雄的な働きや偉業の影にあった、彼らがその場で解決しなくてはいけなかった潜水技術の問題、精神的な課題、身体的な脅威を抽出しました。そこに惹かれ、この事実に基づいた物語をすばらしい俳優たちと一緒に作ってみようと思ったのです」と、企画の立ち上げの経緯を語る。
劇中でタイの知事を演じた俳優のサハジャック・ブーンタナキットは「私はタイ出身で、遭難事故が起きた際にニュースを見ていましたが、実際に洞窟の中でなにが起きていたのか、子どもたちがどのように救出されたのかについてはほとんど知りませんでした。世界中の人々も同様だと思います。ロン・ハワード監督は、一つ一つ順を追い、実際に体験しているような映画にしています。これは、今年観た映画で最も偉大なスーパーヒーロー映画だと思いました。たくさんのヒーローが出演している、まるでスーパーマンのようなハワード監督によるヒーロー映画です」と、感慨深げに語っていた。
「これは特撮映画ではないのです」(ヴィゴ・モーテンセン)
英国から招集された元消防士のリック・スタントン役をヴィゴ・モーテンセンが演じている。実際に救出活動にあたったスタントン本人も技術アドバイザーとして、事実関係の監修だけでなく、撮影中のキャスト・スタッフの安全を守るためにオーストラリアで行われた撮影に参加していた。モーテンセンは、撮影準備期間をスタントンとハワード監督とのZoomミーティングに費やし、彼の人柄や言葉を会得するよう努めたという。モーテンセンは、「少しダイビングの練習をしてみて、『こんなにハラハラすることを趣味として楽しんでやっている人がいるなんて!』と思いました(笑)。
Zoomでは、リックがスペイン北部の山で一緒に訓練を受けていた人々の話を聞いたり、リックの口調を習得するだけでなく、彼が撮影した写真やビデオを見せてもらい、役者としてできるだけ近づけるよう努力しました。撮影に入ってからは、リックが技術アドバイザーとしていてくれたので、誰もが彼の一挙手一投足を注意深く観察していました。それは、ダイバー役として正しく動くためだけでなく、必ず安全に撮影を乗り切るためでもありました」と、思い返す。
スタントンは、できあがった映画の中で最も驚いたのは、「ダイビング中には、シリンダー(タンク)を動かすだけで飛び上がるような大きな音がします。撮影現場で実際にその音にみんなが驚き、それが音響で再現されています。洞窟の中で水中にいると視界が限られます。そのため、聴覚が非常に重要な感覚のひとつとなり、聴覚が高まります。水面を漂う泡の音、息づかい、すべてが強調されて聴こえるようになります。映画でもそれらの音が再現されているのです」と語る。
その理由について、モーテンセンがこう付け加える。「そうです、これは特撮映画ではないのです。リックが、『俳優たちは十分に訓練を積んでいるから、実際に潜れると思う』と言ってくれたので、私たちは実際に水中に潜り演技をしました。卓越したストーリーテラーであるロン(・ハワード監督)は、リアリティを追求し、巨大なインディペンデント映画のような作り方をしていました。もしもこれが20~30 年前に作られたり、ロンとは異なる感覚を持つ監督による映画だったら、タイの登場人物は誰もが英語を話し、主に西洋人をヒーローとして描いたでしょう。でも、この映画はそうではありませんでした」。
このモーテンセンの発言に、ハワード監督は「付け加えさせていただけますか?」と、モーテンセンやファレル、エドガートンら俳優陣が実際に潜水し演技するに至った経緯を説明した。俳優組合との取り決めもあり、もともとは役者たちに実際に潜水し演技してもらうつもりはなかったのだという。「『さあ君たち、潜ってみようか』なんて言うことはありませんでした。私は逆に『ヴィゴ、君の気持ちはよくわかる。でも、やらせることができるかわからない』と、止める側でした。ヴィゴは『ダイビングはキャラクターの大きな位置を占めるものです。洞窟でのダイビングは非常に特殊な状況だからこそ、僕らは方法を学び実際に演じなければならないと思う』と言いました。リックやスタント・コーディネーターと確認し、彼らが安全に潜水シーンを演じられるようにスケジュールを組み直しました。このように複雑な撮影が続く作品において、とんでもないアイデアですよ(苦笑)。でも、彼らはやり遂げました。そのおかげで、監督として、役者の顔をしっかりと捉える長く余韻のあるショットを撮影することができました」。