ロン・ハワード監督&ヴィゴ・モーテンセンらタイ洞窟の救出劇『13人の命』チームが明かした、潜水撮影の舞台裏
「この映画で描いているシンパシーや共助の精神は、誰もが人生において積極的に選択できるもの」(コリン・ファレル)
リック・スタントンと共に少年たちの救出の最前線にいたダイバーのジョン・ボランセン役は、ファレルが演じている。ファレルは特に、「ジョンは真っ直ぐな人間で、自分自身と他人に対し、常に最善を尽くすことを念頭において行動しています。ジョンとリックは洞窟ダイビングの世界で出会い、お互いを信頼していると共に、リックが重責を抱え込むような時もそっと手を差し伸べるような父親のような面があると思いました」と、ボランセンの人柄を役作りの基本と捉えたという。ハワードが今作を監督することが参加の決め手で、「この映画は事実を元に描いているけれど、ロンはいつも人間の葛藤を物語の中心に置きます。この映画で描いているようなこと、シンパシーや共助の精神は、誰もが人生において積極的に選択できるものです。13人の命を救うために、自分ができることに集中したすべての人々を描く群像劇に惹かれました」と思い返した。
オーストラリアの洞窟ダイバーで、麻酔専門医のリチャード・ハリス医師を演じたエドガートンも、ファレルの言葉と同様の想いを抱いていると言う。「この救出プロジェクトに関わった人は誰1人として、政治的理由や利己的な利益を求めてはいませんでした。自分が正しいと思うこと、自分ができることを率直にやったまでです。ハワード監督が言うように、『人間は、ただ正しいことをするという想いで力を合わせることができる』ことを表しています。救出に関わった人たちは、有名人や著名人ではないかもしれません。でも、この煩雑な世界で忘れられがちなことを、人々に再び思い出せてくれました」と語る。一方で、モーテンセンと同様にダイビングの訓練から得るものも多かったようだ。「洞窟でのダイビングは視界ゼロで、安全が担保されている状況とはいえとても緊張しました。スタント役の子どもたちは意識を失っている演技をしていて、障害物を避けながら彼らを救出する水中での演技には、俳優としての学びがたくさんありました。でも、とても楽しかったのも事実です。子どもの頃に憧れていたヒーローのような役ですから。新しい技術を学び、得たことのない感情を表現する職業なんて、ほかにはあまりないですよ」。
2018年のタムルアン洞窟の遭難事故は、救出直後からドキュメンタリーやフィクションなどいくつものプロジェクトが立ち上がっていた。それらの作品群のなかでも、この『13人の命』は救出劇のスペクタクルを用いながら、人間が持ちうる知力と体力の結集によって奇跡を起こせるという、かつてのハリウッド映画が好んで描いてきた精神が生きている。それはロン・ハワードという強靭なストーリーテリングを持つ監督が手掛けた作品だからであり、モーテンセンやファレルだけでなく、すべての登場人物が実際に撮影を乗り越えることで力を合わせた結実が現れているからだろう。
取材・文/平井 伊都子