吉岡秀隆が語る、映画を作り続けること。「映画は腐らない、時代や時間を超えていく」

インタビュー

吉岡秀隆が語る、映画を作り続けること。「映画は腐らない、時代や時間を超えていく」

『かもめ食堂』(06)などの荻上直子監督が、“おいしい食”と“ささやかな幸せ”を綴った映画『川っぺりムコリッタ』(9月16日公開)。特集掲載中のMOVIE WALKER PRESSでは、松山ケンイチら主要キャスト4人にリレーインタビューを実施。第3回は、荻上監督が「本作の大黒柱のような存在」と絶大な信頼感を寄せた吉岡秀隆が、荻上組の撮影秘話や、俳優業への向き合い方、映画作りにかける熱い想いを語ってくれた。

「松山くんは『いい男』です。いい俳優は必ずいい男でもあると思います」

次第に心を通わせていくハイツムコリッタの住人たち
次第に心を通わせていくハイツムコリッタの住人たち[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

人目を避けて暮らそうと、築50年のハイツムコリッタに引っ越してきた孤独な男、山田たけし(松山)。山田は、いきなり「風呂を貸してほしい」と願い出るような図々しい隣人、島田(ムロツヨシ)や、墓石の販売員である溝口(吉岡)、夫を亡くしたばかりの大家、南(満島ひかり)といった様々な事情を抱えた住人たちと交流していくなかで、かたくなだった心が解きほぐされていく。

吉岡が荻上監督からオファーを受けたのは、相当前のことだったとか。「脚本を読んでみるとすごくおもしろかったのですが、映画化は頓挫してしまいました。僕自身とても残念でしたが、その後、荻上監督が書かれた小説版を読んだら、やっぱりおもしろくて。ですから、『もう一度、映画をやります』と聞いた時は、良かった!と思いました」。

【写真を見る】穏やかな眼差しに、あふれるダンディズム…吉岡秀隆を撮り下ろし!
【写真を見る】穏やかな眼差しに、あふれるダンディズム…吉岡秀隆を撮り下ろし!撮影/垂水佳菜

荻上監督の世界観について、吉岡は「優しくて柔らかい品格が漂っているなかで、孤独だったり、若い人たちが置かれている屈折した感情だったりがとてもリアルに迫ってきました。ファンタジーとリアリティが混ざりあい、心に突き刺さる感じが、荻上監督らしいと感じ、僕はとても好きでした。また、最初にお話をいただいた時よりも、いまのほうが貧困などの社会問題がより深刻になっているので、まるでこの映画が、生まれるタイミングを見計らっていたんじゃないかとも思ってしまいました」と感想を述べた。

吉岡演じる溝口は、墓石を売るべく、毎日息子と共に見知らぬ家の扉を叩くセールスマンというキャラクター。しかし、そう簡単に墓石が売れるはずもなく、次々と門前払いをされる姿に哀愁が漂う。

吉岡は、松山ケンイチを「いい男であるとともにいい俳優だ」と評する
吉岡は、松山ケンイチを「いい男であるとともにいい俳優だ」と評する[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

「本作に登場するのは、全員心に傷を負っているキャラクターです。劇中では、溝口の過去は詳しく描かれていませんが、彼は奥さんに逃げられ、どうやら一度は死を覚悟したらしいこともわかります。そういう彼が持つ闇みたいなものを心の底に置いて、演じようと思いました」。

主演の松山については、「ひと言で言えば『いい男』です。いい俳優は必ずいい男でもあると僕は思っています。松山くんは独特なマイペースさを持っていて、僕自身としてはあまりすべてをつかみたくないというか、謎の部分も残したいという気持ちもあります。(撮影現場での)ムロくんとのやりとりを聞いていても、つくづくいいヤツだなと思いました。また、ムロくん自身も気遣いの人だし、満島さんも含め、本当に心根の優しい人たちばかりの現場でした。それでいて皆さん、地に足が着いている。僕はいつもふらふらしているので、皆さんを見て、自分もしっかりしなきゃと思わされました」。


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