吉岡秀隆が語る、映画を作り続けること。「映画は腐らない、時代や時間を超えていく」
「映画の灯を絶やしてはいけないという想いは、ずっとどこかにあります」
続いて、完成した映画を観た感想を聞くと、「『それでも時は流れていく』ということです。いまは混迷の時代で、コロナ禍になり、戦争が起こったりと、現実とは思えないことばかり。それでも日常は悪いことだけじゃないし、溝口も『生まれては消えて、消えてはまた生まれ』と言っていますが、漠然と無常というものを感じました」と述懐。
吉岡は「いまは、フィクション以上のことが現実に起こっています。例えば、スポーツ界では大谷翔平選手のように、マンガでも企画が通りそうにないくらいすごい選手が現れて、『本当にすごい!』と感心します」と二刀流で活躍する大谷のミラクルな偉業を称える。
確かに虚構を超える現実を目の当たりにしている昨今だが、5歳から子役デビューし、長いキャリアを誇る吉岡は、俳優という生業上、現実を生きると同時にフィクションの世界に身を置く生活を送ってきた。そんな吉岡に改めて、俳優業への想いを聞くと「僕は震災の時にずいぶん考えました」と、2011年の東日本大震災当時を振り返る。
「ちょうど『ALWAYS 三丁目の夕日’64』を撮影していた時でしたが、原子力発電所の事故も起こったなかで、はたして僕は(演じた)茶川のように喜劇の要素が強い役を演じていていいのだろうかと考えてしまって。そもそも役者という職業ってなんだろうと、とことん考え抜きました」と告白。
「いまもコロナ禍で、現場では本番前までマスクをして、目の表情だけを見て芝居をするので、これまでとは少し違っているし、いろんなことが変わりました。それでも僕たちは、あがくしかない。そして映画を作り続けるしかないなと思いました」。
これまでに、渥美清や田中邦衛、高倉健といった錚々たる名優たちと共演してきた吉岡は、先人たちから、そのような熱い想いを受け継いできたのだろう。
「たとえ思うようにいかなくても、俳優としては、コロナだから、震災だからといった言い訳はできません。できあがった映画はこの先もずっと残っていくし、やはり映画の灯を絶やしてはいけないという想いはずっとどこかにあります。映画は絶対に腐らないし、何年か後に荻上作品を観てハマる子どもたちが出てきたとしても、その子たちが『あの時はコロナ禍で大変だった』とは思いませんよね。僕たちも昔の映画を観ている時、『あの時代は戦争があったな』と常に思いながら映画を観るわけではないので。だから、どれだけ大変なことがあっても、僕は映画を作り続けるしかないと思っています」。
吉岡の揺るぎない情熱と決意は、共演者にも伝わっているはず。かつて子役だった吉岡がそうだったように、今回吉岡と共演した子役の北村も、きっとなにか大切なものを受け取ったに違いない。「光授くんが大人になってから本作を観た時に、どう感じるんだろうかと思ったりします。映画はそういうところが魅力です。時代や時間を超えていくものだと信じています」。
取材・文/山崎伸子