吉岡秀隆が語る、映画を作り続けること。「映画は腐らない、時代や時間を超えていく」

インタビュー

吉岡秀隆が語る、映画を作り続けること。「映画は腐らない、時代や時間を超えていく」

「荻上組は時間の流れ方が穏やかで、自然と溝口という人間が成立していきました」

荻上組の雰囲気を尋ねると、「淡々とすごく柔らかい空気が流れていて、誰も余計なことをしないし、がさつな人もいないという印象です。それはねらってできることじゃないと思いますが、穏やかな時間の流れのなかで、お芝居だと意識することなく、自然と溝口という人間が成立していった感じでした」と現場の心地良さを語った。

墓石の販売員をしている溝口(吉岡)と息子の洋一(北村)
墓石の販売員をしている溝口(吉岡)と息子の洋一(北村)[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

息子の洋一役を演じた北村光授とは、いまでもよく連絡を取り合う仲だそうだ。「僕と光授くんが2人きりになるシーンでは、ベタベタせずにピリッとした空気が必要だったので、撮影中は少し距離を置き、コミュニケーションは子どもをあやすのが得意な松山くんにおまかせしました。でも、撮影が終わった日は、2人でゲームをやって散々遊びました。すごくかわいくていい子です」。

本作の中盤で、高価な墓石が売れたご褒美に、ふんぱつしてすき焼きを食べることにした溝口親子。ところが、美味しそうな匂いをかぎつけ、山田や島田、大家の南親子までが次から次へと溝口家に押しかけ、結局は全員ですき焼きを味わうことに。実に笑いを誘うシーンだが、吉岡は「溝口は結局、お肉を食べられなかったんです」と苦笑する。「僕が食べたのは、ネギと白滝のみ。お肉を取ろうとすると、南さんが自分の器を差しだす、といったことを細かくやっていきました(笑)」。

「鯛のカマが安く売っていると『やったあ!』となります」

ハイツムコリッタの住人らがすき焼きを囲むシーンには、空腹感を誘われる
ハイツムコリッタの住人らがすき焼きを囲むシーンには、空腹感を誘われる[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

全員で楽しくすき焼きを味わうくだりは、誰かと食卓を囲むことのすばらしさを表す名シーンだが、吉岡自身の忘れられない“おいしい食”のエピソードについても聞くと、「男はつらいよ」シリーズで長い間共演してきた倍賞千恵子との思い出について語ってくれた。

「撮影に入る前にPCR検査を受けたら、陽性反応が出て、僕だけ参加が遅れてすごく迷惑をかけてしまったんです。10日間の隔離生活で、朝昼晩とお弁当生活でしたが、その時にテレビを観ていたら、満島さんが美味しそうにビールを飲んでいて、すごくうらやましく思いました(笑)」と療養中を振り返ったあとに本題へ。

古いアパート“ハイツムコリッタ”の大家で未亡人の南詩織(満島)
古いアパート“ハイツムコリッタ”の大家で未亡人の南詩織(満島)[c] 2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

「隔離中は、倍賞千恵子さんが心配して、毎日のようにお電話をくださいました。『今日はなにを食べた?』と聞かれて『とんかつです』と答えると、『油ものか。野菜は取れているの?』と聞かれまして。それから本作の撮影終了後に北海道へ行き、倍賞さんにお会いした時に、サラダのおいしいイタリア料理のレストランへ連れていってもらいました。そこでサラダを山盛りいただきましたが、涙が出そうになるぐらい野菜が美味しくて、体中の細胞が喜びました。倍賞さんが『おいしい?』とニコニコ笑ってくださったことも忘れられないです」。

また、もう一つのテーマである“ささやかな幸せ”を感じる瞬間についても聞くと、吉岡は「僕はよくスーパーに行くんですが、ねらっていたものがあった時なんかはうれしくなります。例えば、鯛のカマが4つ入ったものがとびきり安く売っていると『やったあ!』となります(笑)」と、庶民的な一面を覗かせる。

 “鯛のカマ”などの庶民的なものにも幸せを感じるという、飾らない吉岡
“鯛のカマ”などの庶民的なものにも幸せを感じるという、飾らない吉岡撮影/垂水佳菜

「塩焼きにすると本当に美味しくて。いつも売っているわけじゃないけど、食べたいと思った時に、いくつか選べるくらいにトレーが並んでいると、本当にうれしくなります。また、“鯛の鯛”(鯛の形をした骨)を見つけると、より幸せな気分になれますね」と満面の笑みで話す。


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