樋口真嗣監督が『アバター』に見出した希望…「現実世界に軸足を置くジェームズ・キャメロンがそのリミッターを解除した」
「さながら“アベンジャーズ”のような連合軍が組織され、膨大な量の3DCGショットを分担したんです」
地球から5光年離れた神秘の星パンドラを舞台にした『アバター』は、先住民ナヴィや多彩な動植物などキャラクターはもちろん、神秘的な森や岩山など惑星の景観すべてが3DCGで描かれた。そのプロジェクトには、世界トップクラスのVFXスタジオが集結することになった。「もともと、『アバター』はキャメロン自身が立ち上げたデジタル・ドメインが1990年代に作る予定だったのが、仕切り直しになりました。その後、ピーター・ジャクソンが興したニュージーランドのCGファシリティ、WETAデジタルが全面的に参加し、『アビス』や『ターミネーター2』で映画の3DCGに革命を起こしたILMも加わるなど、さながら“アベンジャーズ”のような連合軍が組織され、膨大な量の3DCGショットを分担したんです」。
ただし樋口監督が最も感銘を受けたのは、壮大なスペクタクルよりさりげないショットへのこだわりだった。「あまりに自然でみんな気づいていないと思うのですが、下半身不随のジェイク(サム・ワーシントン)の脚がまったく使われていないため痩せ細っているんです。鍛え上げられた上半身との落差で“らしさ”を表現していて、そこまでやるんだ!って衝撃を受けました。もちろん、労力を注ぎ込んだ見せ場、マネーショットはいっぱいあるんですけど、あの脚が与えるリアリティが重要だと思うんです」。
「観たことのない世界を舞台に、刺激的な対立と衝突を描きながら普遍的な愛の物語に結実させた」
キャメロンが自ら開発の指揮を執った3D撮影システム“フュージョン・カメラ・システム”で撮影された『アバター』は、没入感ある映像も話題を呼んだ。しかし樋口監督は、この映画に観客が没入できたのは映像テクノロジーの力だけではないと考える。「エンタテインメント大作映画がこぞって3D化を目指し始めていた時期に、『アバター』はその先駆的役割を担っていました。しかしこの作品があれほど没入感を持っていたのは、観たことのない世界を舞台に、刺激的な対立と衝突を描きながら普遍的な愛の物語に結実させた、映画そのものの力もあったと思います」と解説する。
では、映画作りを行ううえで、観客を没入させるために大切なことはなんだと考えているのだろうか?「美しさとスピード感です。ふだん暮らしている日常では体験不可能なくらいの美しさとスピード。それを体験できるのが、劇場体験だと思っているからです」。
1956年生まれ、東京都出身。『ゴジラ』(84)に造形助手として、映画界に入り、特技監督として「平成ガメラシリーズ」などに携わる。おもな監督作は『ローレライ』(05)、『日本沈没』(06)、「進撃の巨人ATTACK ON TITAN」シリーズ(15)、『シン・ゴジラ』(16)、『シン・ウルトラマン』(22)など。