樋口真嗣監督が『アバター』に見出した希望…「現実世界に軸足を置くジェームズ・キャメロンがそのリミッターを解除した」
「『アビス』から30年以上の時が経ち、今回どんな体験をさせてくれるのか」
2022年年末の話題作として注目される続編『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(12月16日公開)に期待することついて聞いてみると、「10年以上の歳月をかけ、キャメロンはなにを見せてくれるのか?ただひたすら座して待ち、受け入れるのみ」という樋口監督。
ただ、すでに公開された最新作の予告編からも、物語の舞台が森から美しい大海原へと広がることが確認できるとあって、ビジュアル的に最も気になるのは“水の描き方”だと答えてくれた。「3DCGの表現で鬼門とさえ言われる水の表現。不確かな外的要因が何重にも作用し合い動き続けているので、“本物に見える”まで到達するには莫大な計算時間が必要なんです。だから、これまでの多くの3DCGの海は、“海に見える擬似的な表現の組み合わせ”で錯覚させてなんとか成立させてきたんです。それを逆手にとって、未知の生物によって“制御された海水”をCGで表現したのが、1989年にキャメロンが監督した『アビス』でした。あれから30年以上の時が経ち、今回どんな体験をさせてくれるのか、本当に楽しみですね」。
「映画をスマホで観ることに慣れてしまった世代に、ラージフォーマットの没入感をどうやって訴えるのか?」
最後に、樋口監督にとってのキャメロン作品のフェイバリットを尋ねると、前述の『アビス』という答えが返ってきた。『アビス』は、キャメロンが高校時代に書いた短編小説が原作で、行方不明となった原子力潜水艦を捜索する救助チームが、深海で謎の生命体と遭遇する物語が描かれる。第62回アカデミー賞では視覚効果賞を受賞した。
「慈愛と怒り、美と暴力が対位的に均衡している奇跡のような映画ですから。デジタルが映画に入り込む端境期にしか作り得ない精緻な映像で、ぜひラージフォーマットで観てみたいです」と熱弁。『アバター』をキャメロン自らがリマスターした『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』でも、最も注目しているのはラージフォーマットの威力だという。「アップコンバートではなく、再レンダリングをかけているので、質感がまるで違うようです。映画をスマホで観ることに慣れてしまった世代に、ラージフォーマットの没入感をどうやって訴えるのか?とにかく、いまは観たほうがいい、届いて!としか言えないですが…。どれだけすごくなったのか、ビフォアアフターの比較を見てみたいですね」。
構成・文/神武団四郎
1956年生まれ、東京都出身。『ゴジラ』(84)に造形助手として、映画界に入り、特技監督として「平成ガメラシリーズ」などに携わる。おもな監督作は『ローレライ』(05)、『日本沈没』(06)、「進撃の巨人ATTACK ON TITAN」シリーズ(15)、『シン・ゴジラ』(16)、『シン・ウルトラマン』(22)など。