押井守監督が『アバター』に”敗北宣言”「私がやりたかったのは、まさにコレだったんだ」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
押井守監督が『アバター』に”敗北宣言”「私がやりたかったのは、まさにコレだったんだ」

インタビュー

押井守監督が『アバター』に”敗北宣言”「私がやりたかったのは、まさにコレだったんだ」

かつて『タイタニック』(97)で映画史を塗り替えたジェームズ・キャメロンが、その偉業を再び自身の手で塗り替えた『アバター』(09)。世界中で驚異的な大ヒットを記録し、いまなお世界興行収入の歴代1位に君臨している。神秘の星パンドラを舞台にしたSFアドベンチャーで、その世界観を100%デジタルで創り上げた前代未聞の映像技術は世界中の映画ファン、フィルムメイカーに大きな驚きをもたらしたことでも知られている。そんな『アバター』を、キャメロン自らの手によってリマスターした『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』が9月23日(金・祝)から2週間限定上映される。そして、13年を費やした待望の続編『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が12月16日(金)公開と、再び『アバター』旋風が巻き起こりそうな勢いだ。

今回は『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』の公開を記念して、キャメロンと親交が深く、『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』(95)、『イノセンス』(04)、『クロラ・スカイ The Sky Crawlers』(08)などで知られるフィルムメイカー、押井守に登場を願い、『アバター』とキャメロンについて語ってもらった。

ジェームズ・キャメロンと親交がある押井守監督。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』への期待も語った
ジェームズ・キャメロンと親交がある押井守監督。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』への期待も語った

「“敗北宣言”という気持ちになってしまうくらいの映像力だった」

『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』は9月23日(金・祝)から2週間限定上映
『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』は9月23日(金・祝)から2週間限定上映[c]2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――2009年、最初に『アバター』をご覧になった時は、どう思いましたか?

「“敗北宣言”だよね。まあ、別に勝負しているわけじゃないんだけど、そういう気持ちになってしまうくらいの映像力だった。違う言い方をすると、『そう、私がやりたかったのは、まさにコレだったんだ』ですよ。

もう25年も前だけど、私はバンダイビジュアルが開設したデジタルエンジン・スタジオで3年間、『G.R.M.』こと『ガルム戦記』という企画のために試行錯誤を繰り返していた。それが回り回って後年、カナダで撮った『ガルム・ウォーズ』になったわけだけど、その始まりはデジタルエンジン・スタジオからだった。アニメ関係者はもちろん、実写、特撮、ゲームなど、あらゆる分野の人間が集められ、世界で勝負できる作品を作ろうとしていたんだよ。

当時のタイトルが『ガルム戦記』だったことからもわかるように、いわゆる“剣と魔法”のファンタジーではなく、ミリタリー系の壮大なファンタジー。2、3分のパイロット版を2本作っただけで座礁してしまったわけだけど、その時、私が目指していたものが『アバター』だったということだよね。実写ベースの映画になることは決めていたので、実写と同じレベルのリアリティを持ちつつ、どこにも存在しない世界を創造し、どこにもいないようなキャラクターを出そう、つまり『アバター』なんですよ」

 神秘の星パンドラを舞台に、人類と先住民ナヴィの戦いが繰り広げられる(『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』)
神秘の星パンドラを舞台に、人類と先住民ナヴィの戦いが繰り広げられる(『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』)[c]2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「芸術的成功と興行的成功、2つをクリアしてこそ本当の成功だと、キャメロンは思っている」

――“どこにも存在しない世界”が『アバター』ではパンドラという星で、“どこにもいないキャラクター”がナヴィになるわけですね?

「そうです。ただし、私とキャメロンではプロセスが違う。『アバター』の場合は、最初に人類が登場して、彼らがパンドラという星に入植しているというプロセスを踏んだうえでファンタジーの世界を見せているけれど、私の場合は真逆。異世界で始まって、最後にようやく地球が見える。『ガルム』はケルト語で“月のイヌ”という意味だから、舞台は月で、それがわかるのが最後。でもキャメロンは、ちゃんと段取りを踏んだうえで異世界を創造している。その丁寧さが大ヒットの秘訣だよ」

――そういう段取りを踏んだほうが観客は異世界になじめるということですか?

「そうです。ただのSFファンやSFマニアだとそういう段取りを踏まない。だって、それでもちゃんとついてくることのできるお客さんのことしか考えてないから。

でも、キャメロンはいまどきの観客のことをわかっている。私がもしこの話を作ったら、『実はナヴィは人類でした』というオチにするんだけど、それだと一部のSFファンにしか受けない。キャメロンはちゃんとわかっているんですよ。それがハリウッドのヒット作の作り方であり、キャメロンの観客論。彼は監督だけじゃなく、有能なプロデューサーとしての面も兼ね備えていて、映画の成功に関しても、芸術的成功と興行的成功、2つをクリアしてこそ本当の成功だと思っているからね」

下半身不随の元海兵隊員ジェイクは、ナヴィと人間のDNAを組み合わせた肉体、“アバター”を手にする(『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』)
下半身不随の元海兵隊員ジェイクは、ナヴィと人間のDNAを組み合わせた肉体、“アバター”を手にする(『アバター:ジェームズ・キャメロン3Dリマスター』)[c]2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

――そんな感じはしますね。

「初めて『アバター』を観た時は、そういうキャメロン的な映画製作論を思い出した。『ハリウッドは、その順番を間違えると成功できない世界』だと言っていたから。私はいつも逆の発想なので、どう頑張ってもメジャーにはなれませんが(笑)。

それについてはキャメロンも納得して『確かにあんたの映画はそうだな』って。でも、目指しているものは似ている。それがなにかと言えば、架空の世界をリアルに描くというSF的なスピリット。だから、『アバター』を観た時に、“敗北宣言”になっちゃったんだよ」

押井守
1951年生まれ。東京都出身。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84)で劇場映画監督デビューを飾る。1995年に発表した『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』はジェームズ・キャメロンやウォシャウスキー姉妹ほか海外の監督に大きな影響を与えた。また、『紅い眼鏡』(87)、『アヴァロン』(00 )、『ガルム・ウォーズ』(14)など多数の実写映画作品も手掛ける。ほか代表作に、『機動警察パトレイバー2 the movie』(93)、『イノセンス』(04)、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(08)、「THE NEXT GENERATION パトレイバー」シリーズなどがある。

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