森見登美彦が語る、“四畳半”との再会「アニメ化されたことで、明石さんは立体的になった」
「アニメの『四畳半神話大系』があったからこそ、本作が生まれた」
『四畳半タイムマシンブルース』の物語の舞台は、灼熱の京都の8月12日。下鴨幽水荘にある唯一のクーラーを司るリモコンが、「私」(声:浅沼晋太郎)の悪友・小津(声:吉野裕行)のミスによって水没してしまうところから始まる。
「私」が映画サークルみそぎの明石さん(声:坂本真綾)と対策を協議していると、モッサリした風貌の見知らぬ男子学生・田村くん(声:本多力)が下鴨幽水荘に現れる。なんと彼は、25年後の未来からタイムマシンに乗ってやってきたというのだ。彼のタイムマシンで昨日に戻れば、壊れる前のリモコンを持ってくることができる。「私」の天才的なひらめきによって事態は悪い方へと突き進む。昨日へ戻った小津や樋口師匠(声:中井和哉)たちは勝手気ままに過去を書き換えていく。やがて「私」は、過去の改変によって世界が消滅してしまう危機を予感するのだ。
「映像化されたことによってイメージがより膨らんで、書いてみたいと思うこともあれば、逆に自分の文章が書きにくくなってしまうこともあります。例えば『有頂天家族』をテレビアニメ化していただいた際には、続編を書く時にいろいろと考えすぎてしまい、自縄自縛のようになって苦労しました。良い影響もあれば、悪い影響もあるといった感じでしょうか」と森見は、自著とその映像化との関係について語る。そのうえで、「それでも今回の『四畳半タイムマシンブルース』は、明らかにアニメの『四畳半神話大系』がなければ存在し得なかった作品です」と断言。
その理由として挙げられたのは、森見自身が本作の最大の“こだわり”であると語る明石さんの存在だ。「『サマータイムマシン・ブルース』でも主人公が女の子を映画に誘うくだりがありましたが、上田さんはそうしたロマンス要素を非常にあっさりと描くタイプ。なので僕はそこを膨らませていかなければ上田さんには勝てないのだと思っていました。『私』と明石さんの話と、タイムマシンの話を絡めていけば、きっといい感じの物語になる。そう考えたのです」。
そして「実は『四畳半神話大系』を書いた時には、あまり明石さんというキャラクターに強いこだわりは持っていなかったのです」と告白する。このキャラクターは森見が学友から聞かされた、その学友の妹をモチーフにして想像を膨らませて作り上げたものだという。「アニメになってビジュアルが与えられ、声が与えられたことでより明石さんというキャラクターが立体的になった。それを踏まえてこの『四畳半タイムマシンブルース』という作品を書いているので、それは映像化の“良い影響”を受けた部分と言えるでしょう。アニメの『四畳半神話大系』があったからこそ、『四畳半タイムマシンブルース』が生まれたのです」。