森見登美彦が語る、“四畳半”との再会「アニメ化されたことで、明石さんは立体的になった」

インタビュー

森見登美彦が語る、“四畳半”との再会「アニメ化されたことで、明石さんは立体的になった」

「人を惹きつける力は、意識しなかった部分にこそ宿るのかも知れません」

生活感あふれる銭湯は、『四畳半タイムマシンブルース』のキーとなる要素の一つ
生活感あふれる銭湯は、『四畳半タイムマシンブルース』のキーとなる要素の一つ[c] 2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会

京都大学在学中に執筆した「太陽の塔」で作家デビューしてから、2023年には丸20年を迎えようとしている。京都を舞台に物語を書き続けてきた森見は「観光客が多い街だけど、その街で暮らしている人たちの生活感も強い。ここ10年くらいで、昔ながらの生活を感じる街並みがどんどん変わっていくのを感じています」と、京都の街へ想いを馳せる。「同時に作家としては、京都の変化よりも自分の変化が大きい。自分が学生でなくなり、40歳を過ぎて、自分が変わっていくなかで京都の見え方が変わってきたような気がしています」と語る。

「いろいろ続けていくために、小説ってなんだろうかと考えていくわけですが、やはり初期のころのエネルギーには勝てない」と、自身の作家性について見つめていく。そのうえで挙げるのは、かねてからファンであることを公言している押井守の名だ。「中学生か高校生の頃、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を観て衝撃を受けたんです。それから『機動警察パトレイバー』や『迷宮物件 FILE538』、『御先祖様万々歳!』をバラバラに観て、後から全部同じ人が作っているのだと知って、非常に感銘を受けました」。

「私」の部屋である209号室の四畳半
「私」の部屋である209号室の四畳半[c] 2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会

それ以来、大学生時代には新作映画も追いかけ、ますますのめり込んだ“押井ファン”だったという森見だが、好きな押井作品を尋ねると、「色々観させていただきましたが、やはり前述したような初期の作品が好きかもしれません」と話す。「押井さんはいまなお、ものすごく考えられながら映画を追求されていると感じます。けれど、僕は映画に詳しくないので、どうしても若かったころに押井さんが好んで描いた、原風景のようなイメージに心惹かれてしまうのです。これは自分自身に照らし合わせてもそうで、僕が20年小説を書き続けてきても、やはり初期の作品からファンになってくれる方が多い。それは考え込んで作られたものではない、生っぽい部分があるからでしょう。惹きつける力というのは、自分で意識しなかったところにこそ宿っているのかもしれないと、とても複雑な気持ちになってしまいます」。

森見登美彦の“原風景”とも呼ぶべき京都の美しい情景がいたるところに
森見登美彦の“原風景”とも呼ぶべき京都の美しい情景がいたるところに[c] 2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会


そんな森見は最近、ある意外な作品から大きな刺激を受けたと明かす。「今回の『四畳半タイムマシンブルース』がディズニープラスで配信されるということを知った時に、僕も加入してみたんです。以前から『アイアンマン』など数作だけを観ていたので、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の作品をまとめて一気に観てみたいと考えていました。そうしたらディズニープラスには、“フェーズ1”、“フェーズ2”と作品の順番がわかりやすく並んでいて、これはできるだけ多く観てみようと取り組んでいきました」。

「10年分の映画を追っていって、集大成である『アベンジャーズ/エンドゲーム』を観た時は、ものすごく感動しました。これは単に『映画を観た』というよりも歴史的な瞬間に立ち会った気分です。世の中よりも2、3年遅くなってしまいましたが、ストーリーがどうという地点を飛び越えて、よくぞあの壮大な企画をやり遂げたなということに感じ入ってしまって…。同時に、物書きとしてはちょっと悔しくもなりましたけどね(笑)」。

『四畳半タイムマシンブルース』はディズニープラスにて配信中/劇場公開中
『四畳半タイムマシンブルース』はディズニープラスにて配信中/劇場公開中[c] 2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会

取材・文/久保田 和馬

関連作品