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ピョン・ヨハン、『声/姿なき犯罪者』に“すべてを投じた”理由を語る「自分の体を使ってでも詐欺の深刻さを伝えたかった」

インタビュー

ピョン・ヨハン、『声/姿なき犯罪者』に“すべてを投じた”理由を語る「自分の体を使ってでも詐欺の深刻さを伝えたかった」

「自分の体を使ってでも、振り込め詐欺の深刻さを伝えたかった」


「すべてを投じてアクションに臨む人を現場で見たのは初めてだった。アクションチームが心配するほど本当に全身全霊でアクションを見せてくれた」(キム・ムヨル)、「自分の体を惜しまず演技をする」(キム・ヒウォン)と共演者が絶賛したように、ピョン・ヨハンの超越的なアクションは、リアルなセットが放つハードな魅力や、スリリングなストーリーをよりサスペンスフルに見せた。

チョン・ジェヒョン武術監督の「華やかさよりはリアルな方向」という方針にピョン・ヨハンも呼応した
チョン・ジェヒョン武術監督の「華やかさよりはリアルな方向」という方針にピョン・ヨハンも呼応した[c] 2021 CJ ENM Co., Ltd., SOOFILM ALL RIGHTS RESERVED10/7(金)新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー

「自分の体を使ってでも、振り込め詐欺の深刻さを伝えたかった。同時に痛快なアクションでも観客を楽しませたかった」と意欲的だった彼は、かなりハードなアクションもすべて自身で演じた。ピョン・ヨハンはドラマ「六龍が飛ぶ」の迫力ある殺陣も印象深く、現在韓国で劇場公開中の『閑山:竜の出現』でもアクションに挑むなど、身体能力の高い役者としても知られている。さらに彼が俳優として優れているのは、アクションをこなしながらも豊かな演技力をすることだ。例えば怒りの表現一つ取っても、一瞬だけ笑ってみたり、目に憤りを宿してみたりと、細かく表情を変化させる。一方格闘するシーンでは、感情を爆発させる。「ソジュンはヒーローのような存在ではない」と解釈していたピョン・ヨハンは、スマートさよりもひたすら切実であろうとしたのだった。

【写真を見る】ハードな撮影の合間に見せる、ピョン・ヨハンの屈託のない笑顔!
【写真を見る】ハードな撮影の合間に見せる、ピョン・ヨハンの屈託のない笑顔![c] 2021 CJ ENM Co., Ltd., SOOFILM ALL RIGHTS RESERVED10/7(金)新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー

「振り込め詐欺犯罪によって、家族や周囲の人々が心に大きな傷を負い、命まで奪われた仲間もいる。だから、クァクという人物に会うまでは表立って表現するより心のなかで怒りを燃やしている、そんな演技をしようとしました。そしてソジュンは、姿も見せず裏で操り、どんどん巧妙で悪質になっていく犯人を見て憤りを感じていきます。だから単なるアクションでなく、その感情の一つ一つを全身に込めて怒りをアクションで表現しようと思いました」。

特に手に汗を握るのが、狭い昇降機通路のワイヤーを登りながら逃げていくシーンだ。「飽きのこないアクションを作りたかったので、撮影に入る前から絶えず訓練をして基礎体力を高めて臨みました」。危険が伴う場面だったが、「チョン・ジェヒョン武術監督がシークエンスを細かく作り込んでくださったので、大きな怪我をすることなく無事に撮影ができました」というこの場面は、本作のクライマックスを盛り立てる圧巻の仕上がりになっている。

「スタント的な要素もピョン・ヨハンがすべてやった」とチョン・ジェヒョン武術監督が舌を巻くピョン・ヨハンの情熱
「スタント的な要素もピョン・ヨハンがすべてやった」とチョン・ジェヒョン武術監督が舌を巻くピョン・ヨハンの情熱[c] 2021 CJ ENM Co., Ltd., SOOFILM ALL RIGHTS RESERVED10/7(金)新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー

「より多くを表現できる俳優になりたい」


ピョン・ヨハンのフィルモグラフィーを紐解いた時、思わず目を見張るのはその役の幅広さ、多様さだ。東京国際映画祭で上映され、舞台挨拶で日本の観客と交流も果たした『起爆』(13)や、映画批評家にも大衆からも高く評価された『ソーシャルフォビア』(14)では、現代社会で生きる若者の屈折を強い説得力で以て演じていた。一方、『あなた、そこにいてくれますか』(16)では、ファンタジックなラブストーリーもこなす力量を見せ、時代劇『茲山魚譜-チャサンオボ-』(21)では小さな島に住む博学な漁師を演じ、名優ソル・ギョングに引けを取らない存在感を残した。『閑山:竜の出現』では日本の将軍脇坂役で注目を集め、今後はソン・ガンホのキャリア初となるドラマ「サムシクおじさん」でブロマンスを演じるそうだ。本人に作品選びの基準について尋ねると、「キャラクターも重要だが、映画の持つメッセージも重要だと思っている」と答えた。社会に対して強い問題意識を持つ『声/姿なき犯罪者』を選んだのも、メッセージを軸に観客と対話をしたいと考えていたからだという。その言葉に、彼の誠実さがにじむ。もちろん、あらゆる映画に抜擢されるのは卓越した才能を持つからなのだろうが、役者としても人間としても真摯なのだろう。

どんなジャンルや役柄も演じ分ける才能を持つピョン・ヨハン
どんなジャンルや役柄も演じ分ける才能を持つピョン・ヨハン[c] 2021 CJ ENM Co., Ltd., SOOFILM ALL RIGHTS RESERVED10/7(金)新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー


ピョン・ヨハンは「シスターズ」のキム・ゴウンや『パラサイト 半地下の家族』(19)のパク・ソダムを輩出した名門、韓国芸術総合高校出身だ。その頃に製作された短篇『土曜勤務』(11)でデビューしてから、すでに10年の時が経った。役者として躍進の只中にいるピョン・ヨハンは、「より多くを表現できる俳優になりたい」と、さらなる高みを目指している。次はどんな作品で、新しい姿を見せてくれるのだろうか。

取材・文/荒井 南

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