『天間荘の三姉妹』「あまちゃん」など…過酷な環境でも自分を見失わないヒロイン・のんの底知れないきらめき

コラム

『天間荘の三姉妹』「あまちゃん」など…過酷な環境でも自分を見失わないヒロイン・のんの底知れないきらめき

被災地で懸命に生きる少女に扮した「あまちゃん」

そんなのんの最大の当たり役は、もちろん、NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」で演じたヒロインの天野アキだ。東京の女子高生アキは夏休みに母親の故郷の三陸で海女になったものの、思いがけないことから東京でアイドルを目指すようになる。さらに東日本大震災で被災した北三陸に再び戻って、地元のアイドルとして復興活動に邁進する姿が描かれたが、そんなアキをのんは等身大のはつらつとした芝居で自分のものにした。

引きこもりがちで目立つのが苦手だった内向的なアキが、三陸の人たちとの触れ合いやアイドル活動を通してどんどん社交的になり、力強く成長していく。そんな彼女をのんは生命力にあふれた明るい言動と笑顔で演じきり、一気にお茶の間の人気者に。驚いた時に発する方言の「じぇじぇじぇ」も流行語になり、親友のユイ(橋本愛)と一緒に劇中で歌った「潮騒のメモリー」も大ヒット。 傷ついた三陸の人たちに元気と勇気を与えたのは周知の通りだ。

『この世界の片隅で』では、声で強い女性を体現

声優として出演した『この世界の片隅に』では、戦時下でもひたむきに生きるヒロイン、すずを演じた
声優として出演した『この世界の片隅に』では、戦時下でもひたむきに生きるヒロイン、すずを演じた[c]2019こうの史代・コアミックス / 「この世界の片隅に」製作委員会

こうの史代の同名コミックを片渕須直監督がアニメ化した『この世界の片隅に』で、声優に初挑戦したのんが、第二次世界大戦下の広島と呉で生きたヒロイン、すずの声を担当し、映画を大ヒットに導いたことも記憶に新しい。すずは18歳の時に顔も見たことのない若者と結婚し、生まれ育った江波から20kmも離れた呉へと転居。いきなり一家を支える主婦になった彼女はアメリカ軍の空襲で姪の晴美を失い、自身も右腕を失う過酷な運命に突き落とされる。


彼女は一見ぼーっとしているように見えるし、内向的だが、実は芯が強くてポジティブ。戦時下の最悪な状況でも楽しく生きる術を身につけていて、着物からもんぺを作ったり、野草でごはんを作る作業もそれなりに楽しんでいるし、生命力にあふれている。


本作に約30分におよぶ新たなシーンを追加して語り直したもう一つの物語『この世界の(さらにいくつもの)片隅で』(19)では、遊女のリンとの触れ合いのなかで年相応の無邪気さも見せたが、のんはその時々のすずの胸の内と心の揺らぎを広島弁の自然な声だけで表現。のんびりしているようでたくましく、幼さと女性の色気を併せ持つ彼女のキャラを、彼女ならではの声のトーンと空気感で作り上げた。人々に元気と温もりを与えるその姿は「あまちゃん」のアキや『天間荘の三姉妹』のたまえとも共通しているかもしれない。

自身の輝きを役に乗せてさらにきらめいていくのん

のんが、天涯孤独の少女たまえに扮するヒューマンファンタジー『天間荘の三姉妹』
のんが、天涯孤独の少女たまえに扮するヒューマンファンタジー『天間荘の三姉妹』[c]2022高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会

そのほかの作品で演じたヒロインたちも、のんのパワーがそのまま魅力になっているものばかりだ。『私をくいとめて』(20)では恋に奮闘する“おひとりさま”のアラサー女性、みつ子を演じ、『さかなのこ』(22)でも魚好きのパワーで強面のヤンキーたちを圧倒する“さかなクン”がモデルの主人公、ミー坊を快演。

そんなのんならでの唯一無二の個性が、最新作『天間荘の三姉妹』のたまえ役には凝縮されている。亡くなった者たちの視線で世界を描く本作で、のんが今度はどんな輝きを放つのか?そのネクストレベルの挑戦を、ぜひ映画館で目撃してほしい。

文/イソガイマサト

※高橋ツトムの「高」は「はしごだか」が正式表記

関連作品

  • 天間荘の三姉妹

    4.0
    595
    高橋ツトムの代表作「スカイハイ」のスピンオフ作品を、のん、門脇麦、大島優子で演じる
  • この世界の片隅に

    4.3
    560
    第2次世界大戦末期の広島で暮らす女性の過酷な運命を描く同名マンガを基にしたアニメ
    Prime Video U-NEXT