『ぼくらのよあけ』原作者&監督が語る、等身大に描かれる子どもたちの人間関係「わかりやすいハッピーエンドにはしたくない」
2011年に「月刊アフタヌーン」で連載された今井哲也のSFジュブナイル漫画を映画化した『ぼくらのよあけ』(公開中)。2049年の東京の片隅にある団地を舞台に、ロボットと宇宙が大好きで、地球に接近する彗星に夢中の主人公、沢渡悠真(声:杉咲花)が、地球に不時着した“二月の黎明号”を名乗る未知の存在に出会い、宇宙へ帰すというひと夏の冒険を描いている。
MOVIE WALKER PRESSでは、原作者の今井と本作の監督を務めた黒川智之にインタビューを敢行。実に11年の時を経て映画化された本作への想いから、舞台となった阿佐ヶ谷の魅力、クライマックスの“二月の黎明号”打ち上げシーンのこだわりまで語ってもらった。
※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。
「映画1本を観たような読後感が残る漫画を」(今井)
ーー「ぼくらのよあけ」を執筆されたきっかけを教えてください。
今井「10年以上前のことなのでうろ覚えですが…。編集さんと次にどんな漫画を描きたいかを話しているなかで、2冊くらいで終わりまでを描いて、映画1本を観たような読後感が残る漫画を、という企画でスタートしました。その時は映画になるとは思っていませんでしたが、当初から映画っぽさを意識して作りました」
ーー執筆時から”映画”を意識されていたのですね。黒川監督は原作を読んだ時、どんな感想をいだきましたか。
黒川「映画化にあたって原作を読んだ時、舞台となった阿佐ヶ谷団地の親しみやすさ、どこかで見た懐かしい光景や団地の扱い方がとても心に残りました。特に新鮮だったのは団地の屋上に水をはって、そこがモニターのようになっている点です。昭和的なアイコンの団地とSF的な水面モニターが合体しているビジュアルがおもしろいと感じました」
今井「そのアイデアは、大学のアニ研で一緒だった友達と、『墜落した宇宙船が団地に隠されていたら…』という本作の設定のネタ出しをしていた時に考えたものです。話しているうちに、屋上がタッチパネルになっていたらと急に思いついて、『これはいける!』となりまして。お酒を飲みながら話していたので、どちらが思いついたのか記憶は曖昧ですが(笑)」
ーー団地の屋上が本作では魅力的に描かれていました。原作と映画、それぞれ描くうえでのこだわりを教えてください。
今井「実は原作の屋上は、僕が想像して描いていたんですよ(笑)。子どもの頃、団地タイプの集合住宅に住んでいましたが、屋上に上がったことはなかったので。自由に入れる場所ではないですからね。漫画完結後にようやく赤羽の団地に見学に行きました」
黒川「先生もおっしゃっているように、屋上は普段なかなか入ることのできない場所。ある種”非日常的”な場所なので、映画では悠真たちが普段見ている景色と、屋上からの景色は違うことを意識して制作しました。漫画は白黒ですがアニメなら独自の色が使えるので、空の色などはかなりこだわっていますし、挑戦している部分でもあります」
ーー本作の舞台となった阿佐ヶ谷という街について、お二人にとっての魅力を教えてください。
黒川「祖父母が杉並区に住んでいたので、阿佐ヶ谷の雰囲気に近い街に馴染みがありました。昔のものといまのもののゴチャまぜ感があって、時空の歪んだ感じが魅力なのかな。不思議な雰囲気のある場所だと思います」
今井「僕は千葉の典型的な郊外から漫画家を目指して上京して、最初に住んだ場所が杉並区だったんですよ。駅前には生活に必要な店だけでなく、あったら楽しいよねと感じるお店もたくさんあるのがおもしろいし、映画館も劇場もあるので、文化が集積しているところが魅力だと思います。子どもを視点に漫画を描く時に、のびのびさせやすい場所だと考えていました」