『ぼくらのよあけ』原作者&監督が語る、等身大に描かれる子どもたちの人間関係「わかりやすいハッピーエンドにはしたくない」

インタビュー

『ぼくらのよあけ』原作者&監督が語る、等身大に描かれる子どもたちの人間関係「わかりやすいハッピーエンドにはしたくない」

「映画のラストが彼らの人生のラストではないという考え方に感銘を受けました」(黒川)

ーー本作ではキャラクターデザインなど原作から変更されている部分もありました。今井さんから映画化にあたってリクエストした部分があったのでしょうか。

黒川「もともとキャラクターデザインを変えて映画化することが前提にあったんですよ。2049年に設定を変更したこともあり、世界観にあわせるためナナコのデザインを大きく変えるなど自由にやらせていただきました」

人間のように会話ができる人工知能搭載ロボット、ナナコ(声:悠木 碧)
人間のように会話ができる人工知能搭載ロボット、ナナコ(声:悠木 碧)[c]今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

今井「最初から細かいことは言わないと決めていたんです。原作を再現することにこだわらず、映画としていいものを作って欲しいとだけお伝えしていました。キャラクターのデザインも、僕が描いた画とは全然違うものになっていましたが、僕の漫画に違う人のアイデアが入った時、どんなものが出来上がるのかすごく楽しみで、絵コンテが上がってくるたびに興奮していましたね。シナリオ会議にも参加しましたが、細かなリクエストはしなかったです」

黒川「基本自由にやらせてもらったのですが、今井先生から1点だけリクエストされたことが印象に残っています」

今井「あれ?なんだろう、覚えてない…(笑)」

学校では「クラスの敵」に認定され、無視されている河合花香(声:水瀬いのり)
学校では「クラスの敵」に認定され、無視されている河合花香(声:水瀬いのり)[c]今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会

黒川「脚本の佐藤(大)さんとシナリオ会議でラストの描写を詰めていた時に、当初はわこを含めた子どもたち全員が救われる大団円というオチを想定していたんですよ。でも今井先生からは『わこは救わなくていいんじゃないですか?』と指摘がありまして。『いろいろあったけれど、これからは仲良くしていこう』という、わかりやすいハッピーエンドにはしたくないということをハッキリ言われたのを覚えています」

今井「みんながわこを許すことで、なにもなかったかのようにまとまるのは良くないと思ったんですよ。いじめられた花香が、自分をいじめたわこを許せなくて当然なんです。本作は、子どもにも観てほしい作品だからこそ、花香の我慢でみんながまとまるような終わり方はしたくなかったのです。だから、映画の尺のなかで綺麗でいい話で終わらせなくていい、という話はしたと思います」

真悟の姉で花香とクラスメイトの岸わこ(声:戸松遥)
真悟の姉で花香とクラスメイトの岸わこ(声:戸松遥)[c]今井哲也・講談社/2022「ぼくらのよあけ」製作委員会


黒川「キャラクターにもプロットにもほぼなにもおっしゃらなかった先生が、そこだけ指摘されたので、こだわりのポイントであると強烈な記憶として残っています。子どもたちの人間関係はファンタジーではありませんので、映画のラストが彼らの人生のラストではないという考え方、キャラクターの掘り下げ方に個人的にも感銘を受けました」

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