『ぼくらのよあけ』原作者&監督が語る、等身大に描かれる子どもたちの人間関係「わかりやすいハッピーエンドにはしたくない」
「僕のなかで“二月の黎明号”は裏の主人公」(黒川)
ーー映画のクライマックスでは、“二月の黎明号”の打ち上げシーンもとても印象的でした
黒川「原作を読んだ時、打ち上げシーンは見開きでバーンと描かれていてカタルシスと爽快感のあるクライマックスだと思っていたので、映画として一番の盛り上げがないといけない部分だと感じていました。それと、ラストでロケットが打ち上がる映画は傑作が多いというジンクスがありまして、そのジンクスに傷をつけるわけにはいかないという想いも (笑)。ただ、その打ち上げシーンの直前に、ペットボトルロケットのシーンでアクション的に盛り上げてしまっているので、ピークの次をどう盛り上げるのか試行錯誤しましたし、プレッシャーも正直ありましたね」
今井「シナリオ会議の時に、ここの盛り上げ方についてお話をされたのはよく覚えています。でも、アニメーションならではの画の力をコンテの段階で感じていたので、出来上がった映像を観た瞬間に、『これはすごいぞ』と圧倒されました」
黒川「ありがとうございます。ロケットが打ち上がる映画を研究した甲斐がありました。いろいろ参考にさせていただきましたが、一番参考にしたのはやっぱり『王立宇宙軍 オネアミスの翼』ですかね(笑)。アニメーションでロケットといえば真っ先に思い浮かぶ作品ですし、ファンタジーとリアルのバランスの取り方が本当にすばらしいと思います。ただ、過去の作品の真似をしてもしょうがないので、『ぼくらのよあけ』なりのファンタジーの乗せ方を意識して演出しました」
ーー “二月の黎明号”の声は、黒川監督の強い希望で朴ロ美さんになったと伺っています。
黒川「監督デビュー作で主役を演じていただいて以来、僕は朴さんの芝居の虜になっていて、朴さんの役者としての表現力をアニメに落とし込みたいという欲がずっとありました。だから原作を読んだ時には『ついに来た!』という感じでお願いさせていただきました」
今井「どのキャストさんもイメージ通りで本当にすばらしかったです。僕は朴さんのアフレコを見学させていただきましたが、舞台の最前列で一人芝居を生で観ているような感覚になりました。とてもいい経験をさせていただきました」
黒川「この表情がない“二月の黎明号”に声をあてるのは本当に難しかったと思います。本作は、“二月の黎明号”のナレーションで始まり、悠真たちとの出会いを経て、最後は旅立っていく、いわば僕のなかで“二月の黎明号”は裏の主人公と考えていました。これは朴さんのおかげで表現できたのだと思っています」
ーー最後にお二人は子どもの頃、どのような少年だったのでしょうか。
黒川「僕の80%はSF映画でできていると言えるくらいSF大好き少年でした。子ども時代はちょうどCGに置き換わる前、アナログ特撮の全盛期だったので、完全に影響を受けています。将来の夢も映画やアニメ監督ではなく、ミニチュアや特撮を作る技師になりたかったくらいでした」
今井「子どもの頃は、タイヤがない車が走る未来を思い描くなど、SFや宇宙、未来の話が大好きな少年でした。特に『ドラえもん』は大きく影響を受けたと思います。そして『ぼくらのよあけ』には、当時の僕が好きだったもの、いまも好きなものがたくさん詰まっています」
取材・文/タナカシノブ
※朴ロ美の「ロ」は、王偏に「路」