稲垣吾郎がいま考える、自身のパブリックイメージとは?主演作『窓辺にて』で「自然と自分の本質が出てしまった」

インタビュー

稲垣吾郎がいま考える、自身のパブリックイメージとは?主演作『窓辺にて』で「自然と自分の本質が出てしまった」

「そもそもこういう人は、他人にアドバイスを求めない(笑)」

自分の感情が乏しいと悩むフリーライターの市川茂巳
自分の感情が乏しいと悩むフリーライターの市川茂巳[c]2022「窓辺にて」製作委員会

稲垣演じる茂巳は、文芸誌の編集者である妻(中村ゆり)に浮気されていると気付きながらも、自分に怒りの感情が湧いてこないことに思い悩む、という役どころ。茂巳のように喜怒哀楽の表現をあまり上手く出せないことから、周囲に「冷たい」と誤解されがちな人物は意外と多い気がする。稲垣が演じているからこそなんとも言えないユーモアとペーソスが漂うものの、特別スポットライトが当たるような、華のあるキャラクターではない。

「自分にも飄々としたところがあって、あまり強い感情には引き摺られない」という稲垣に、茂巳のような感情表現が平坦な人物が生きやすくなるためのアドバイスを求めてみたところ、「いやいや、それは僕には無理ですよ(笑)」と、笑顔で断られてしまった。

もともと今泉力哉作品のファンだったという稲垣吾郎
もともと今泉力哉作品のファンだったという稲垣吾郎撮影/黒羽政士

「僕もそうだからわかるんですけど、そもそもこういう人たちって、他人にアドバイスを求めていないと思うんですよね。人に依存したり期待したりできない人たちがこうなってしまっているわけですから。ごめんなさいね、屁理屈で(笑)。でもさ、こういう人たちって、『君もそう? 僕もそうだよ』って、みんなで一緒に盛り上がる感じでもないじゃない?」


以前取材で「自分のなかにある熱さとか、弱さみたいなものはあまり人に見せたくない」と話していた稲垣。だからこそ、ある雑誌の取材で「実はカメラを150台所有している」というエピソードを語っていたときは、心底驚いた。それを本人に伝えたところ、こんな答えが――。

今泉力哉監督は「きっと稲垣さんならこの主人公の中に渦巻く複雑な心を体現してくれるのではないかと思った」と評している
今泉力哉監督は「きっと稲垣さんならこの主人公の中に渦巻く複雑な心を体現してくれるのではないかと思った」と評している撮影/黒羽政士

「別に隠しているつもりもなかったんだけど、僕はもともと自分から進んでプライベートについて話すタイプじゃないですし、たまたま草なぎさんがフィルムカメラにハマってるっていうから、流れでそういう話をしただけじゃないかな。好きで集めていたら、いつのまにか150台も集まっちゃったというだけで、別に話のタネにしようとか、芸の肥やしにしようとして集めているわけでもないですからね(笑)」

いわゆるコレクターとは少し違うといい、「僕はできればモノを増やしたくないし、別に集めること自体が好きなわけじゃない。もちろん飾って眺めることもあるにはあるんだけど、ただそこにしまっておくだけじゃなくて、ちゃんと全部のカメラに触りたいんです」

今泉監督によれば、本作は「そこそこ年齢差もあるいろんな人たちに、稲垣さんがただただ絡まれている時間が結構長い映画でもある」という。だが、稲垣自身は「あまり話はできなかったけど、年下の人たちの中に入っていく感じはなかった」そうで、高校生作家の留亜役を演じた玉城ティナの印象について語る言葉からは、稲垣自身の感性も伝わってくる。

稲垣と玉城ティナのシーンは、恋人とも友人とも違う絶妙な関係性が心地よく映る
稲垣と玉城ティナのシーンは、恋人とも友人とも違う絶妙な関係性が心地よく映る[c]2022「窓辺にて」製作委員会

「ティナさんは達観されていて、どこか“可愛いおばあちゃん”みたいな感じがあるんです。ミステリアスなんだけど、小悪魔的というのではなくて。仙人っぽくもあり、猫っぽくもあり、やっぱり、“可愛いおばあちゃん”がぴったり(笑)」

茂巳が妻の浮気について言及する長回しシーンは、つい見入ってしまうほどリアル
茂巳が妻の浮気について言及する長回しシーンは、つい見入ってしまうほどリアル[c]2022「窓辺にて」製作委員会

役を通じて、“稲垣吾郎”の素の部分が垣間見えるような、不思議な映画でもある『窓辺にて』。映画の終盤に展開される、妻役の中村ゆりとの12分にもわたる長回しシーンも圧巻だ。「演じていても手ごたえを感じましたし、試写で観た時も、ほかのシーンは冷静に観れていたのに、あの場面はグッと入り込んで緊張しました。茂巳のような力の抜けた人物が主人公になること自体珍しいですし、この映画と似ている作品はありそうでなかなかない。独特な感情を描いた、新しいエンタメだと思います。自画自賛になってしまいますが、僕自身『お金を払って映画館で何度も観たい』と思える、自信をもってお届けできる映画になりました」

取材・文/渡邊玲子

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