『すずめの戸締まり』は“IMAX推し”!アクションと映像美を極めた、新海誠ワールドの到達点
『君の名は。』(16)、『天気の子』(19)が大ヒットを果たし、世界的に注目されるアニメーション作家となった新海誠監督の3年ぶりとなる最新作『すずめの戸締まり』が、いよいよ本日よりスクリーンにお目見えした。
新海監督が「映画館に足を運ぶ理由になる映画を」との願いを込めて取り組んだ本作は、日本各地の廃墟をめぐる旅に出るヒロイン、鈴芽(原菜乃華)の解放と成長を描く物語。新海作品の魅力である圧倒的な映像美、それらと溶け合う壮大な音楽はもちろん、いまの時代に届けるべき映画としての覚悟がみなぎる本作は大スクリーンでこそ真価を発揮する、まさに“IMAX推し”の一本と断言したい。本稿では、そんな話題作の見どころをネタバレなしで解説していこう。
躍動感あふれる映像美をIMAXで目撃!力強いアクションで魅せる、新海監督の新境地
新海監督が本作の企画書を提出したのは、世界がコロナ禍に突入した時期だという。誰もが先の見えない不安を抱えていたなかで、新海監督は「映画館に足を運びたくなる作品」というキーワードを掲げて制作に着手。
2021年の12月に行われた製作発表記者会見では、「映画館は人間の持っている能力を発揮させてくれる場所。それは感情移入すること、物語に没入する能力。映画館に足を運んで暗闇のなかに座って、集中して大きなスクリーンを観ることで、もっともそういう能力を発揮して物語に入り込めると思う。“鈴芽がいるから映画館に行きたい”と思っていただけるような映画を目指したい」と宣言していたが、待望の完成作は、まさにこの言葉通りの1作として結実。映画体験の幸福感を最大限に引きだすIMAXでこそ、その魅力を堪能できるのが本作なのだ。
『ほしのこえ』(02)や『秒速5センチメートル』(07)、『君の名は。』『天気の子』など、新海監督はすれ違いながらも、憧れに手を伸ばそうとする人たちを美しく、切実な祈りを込めるように描いてきた。本作の鈴芽は、そのなかでもとりわけ力強く走りだすヒロインだ。彼女と一緒に旅に出かけることで、私たち観客はあらゆる景色を目にすることができる。
鈴芽は九州の静かな町で暮らす17歳の高校生で、「扉を探している」という青年、草太(松村北斗)と出会い、彼と共に“災い”の元となる扉を閉めていく旅へと出発する。草太は、災いの扉を閉じて鍵をかける、“閉じ師”をしている青年だったのだ。そんななか本作の大きな見どころの一つとなるのは、“扉の向こう側”という未知なる世界を観客に映像として届けてくれる点だ。
草太を追いかけて、廃墟にポツンと佇む不思議な扉を見つけた鈴芽は、ぐるりと周りを見渡しながら一歩足を踏み入れてみる。一体“扉の向こう側”にはなにがあるのか?と観客も息を呑んで見守ることになるが、そこで彼女が目の当たりにするのは、星空の草原。青や赤、紫で彩られた情景が美麗で、一気にファンタジックな世界に引き込まれる。
眼前に広がる神秘的なビジュアルは、アニメーションだからこそ実現できたもの。イマジネーションと、積み重ねてきた技術を駆使して描く扉の向こう側は、鮮やかなコントラストによって深みを表現するIMAXで確認しなければもったいない。黒色も鮮明に映しだすIMAXならば星は一層またたき、繊細なグラデーションも細部まで味わうことができるため、鈴芽同様に扉の向こうに迷い込んだかのような臨場感を体験できるはずだ。
また本作は、新海監督が現代を舞台にしたアクションに挑戦していることでも話題だ。扉から災いがゴウゴウと煙を立てて襲いかかり、それを必死で食い止めようとする鈴芽と草太。IMAXの大スクリーンで観るとこちらにまで風が吹き付けてくるような熱気と迫力があり、彼らが「お返し申す!」と叫びながらガシャン!と鍵をかける瞬間も手に汗握るようなドキドキ感でいっぱい。やがて災いは空いっぱいに広がり、それに立ち向かうためにガードレールを飛び越え、猛ダッシュ、ハイジャンプしながら空高く駆け上がっていく“戦うヒロイン”の姿は、これまでの新海作品ではあまり見られないアクション描写だろう。床から天井、左右の壁いっぱいに広がる大型スクリーン、そして、明度、コントラスト、明るさなど細部にいたるまで高い精度で調整されたIMAXで、新海監督の新たなチャレンジを全身で浴びてほしい。
2人の旅は、瀬戸内の海やその土地ごとの山々、都会のビル群や夜景を背景に、九州、四国、関西、そして東京へと進む。新海監督は『天気の子』の興行において全国を巡った経験を本作に注ぎ込んだそうで、日本各地の自然の豊かさや人々の温かさに触れられる、冒険物語としても秀逸な作品となった。朝日に輝く海、夕焼けに染まる山など、新海監督作品の大きな特徴である美しい風景描写を見られるのはもちろんのこと、新海監督は「さみしい場所が増えた」という実感と共に風景を描いており、「美しい」だけでは語れない、日本の情景がそこにある。
イメージの飛躍や驚きの映像表現といったアニメーションの醍醐味を感じながら、リアルな“生きていく力”が浮かび上がる作品となっており、心揺さぶるクライマックスに向かって映画との一体感に浸るうえでも、IMAXという特別な空間はうってつけだ。