総勢5000人の大脱獄劇…「道はひとつだ!」反乱への道筋が見えてきた「キャシアン・アンドー」第10話
輝かしい“新しい希望”であるルーク・スカイウォーカーの物語とは対をなす陰の物語
すべての物語が表面張力ギリギリで保たれているような緊張感が続くなか、ナーキーナ・ファイブにはひと足早くその時がくる。人員補充のため新人が到着する。ケンカを起こしたとみせかけ、キャシアンたちは看守たちに一斉に攻撃しかける。看守は床に通電させ、素足の彼らを罰しようとするがキャシアンが地道にトイレで削っていたパイプはすでに破裂しフロアは水浸しだ。装置はショートし、完全に停止する。彼らの足枷はなにもなくなった。全員が興奮の雄叫びをあげながらフロアへ駆け上がるのに対し、看守を始末して指示を出し、計画を滞りなく進めるキャシアンはどこまでも冷静だ。キャシアンとキノは総司令室にたどり着く。彼らはナーキーナ・ファイブの全電源を落とさせる。その上で、キャシアンはキノに全館に向けて「呼びかけろ」と言う。ここで、自分で語ることはなくキノに任せたほうがいいと判断するのも、彼の立ち位置を物語る。
キノのスピーチは確かにすべての人々の心を打った。「運命から脱する道はただひとつ」。それを合言葉に5000人の受刑者全員が立ち上がり、廊下を疾走し、階段を駆け上るシークエンスは本作でもっとも高揚感のある場面だったのではないだろうか。最後、生き抜いた全員が海を泳いで陸地を目指す。しかし、キノは目がうつろだ。「…泳げないんだ」と力なく言葉にする。それが聞こえたか、聞こえないか。キャシアンはほかの仲間に巻き込まれ、海へと落ちていく。
ナーキーナ・ファイブ編の完結のあとにはどんな物語が待ち受けるのか。第10話最後、反乱の中心人物として暗躍するルーセン・レイエル(ステラン・スカルスガルド)にコンタクトを持ちかけていた“彼”がISBのロニだということがわかる。ロニは反乱側のスパイだったのだ。しかし、家族ができたロニはもう犠牲を払いたくない、スパイを辞めたいと言う。そんな彼にルーセンは「自分はすべてを犠牲にして汚れ役に徹してきた」と自身を語り「自分がなれない“英雄”が必要だ」とロニを引き止める。彼らの闘争の先には、脚光も栄誉もない。キャシアンの行動とルーセンの言葉で彼らは同じ日陰の存在なのだと改めて気づかされる。これは、輝かしい“新しい希望”であるルーク・スカイウォーカーの物語とは対をなす陰の物語なのだ。その行く末には一体、なにが待つのか。残り2話も見逃せない。
文/梅原加奈