新たなクリスマス定番の誕生!『スピリテッド』豪華キャスト陣が明かす、「クリスマス・キャロル」に込められたテーマ
「ミュージカルの経験がない俳優を揃えた製作側の責任だと思う(笑)」(ウィル・フェレル)
撮影に入ると、脚本に書かれていた以上の分量がミュージカルシーンに割かれていたことに驚き、戸惑ったと全キャストが打ち明ける。レイノルズは、「僕は生まれつきのシンガーでもダンサーでもないし、一緒にシーンを作り上げるプロのダンサーたちのように、人生をかけて築き上げてきた技術もない。並はずれた才能とオーラを前にすると、ちょっと傍観者のような視点を持ってしまうものです」と話す。これを聞いてフェレルは、「ミュージカルの1曲を撮影するために、3〜5日かかります。一音節ごとに『ちょっと待って、そうじゃない!』と撮影が止められてしまう。僕らがやることなすこと全て、『全然違います!』って言われちゃう。そうなると、ミュージカルの経験がない俳優をこんなに揃えた製作側の責任だと思うけど(笑)」と肩をすくめた。そのやりとりを見ていたスペンサーは、「私は、現存するコメディアンのスーパースターの2人と同じスタジオにいられるだけで光栄だったけど(笑)。そのうえ2人と一緒に歌やダンスに苦労した経験は…。すごくおもしろかったうえに、できない者同士で仲間意識が一層強まりました」と語る。
ディケンズの「クリスマス・キャロル」は、いままでもたくさんの映像化が行われてきた。そのなかでレイノルズがお気に入りに挙げるのは、『マペットのクリスマス・キャロル』(92)。レイノルズは、「マイケル・ケインのスクルージも良かったけど、ビル・マーレイの『3人のゴースト』(88)も好きでした。この映画のためにたくさんのバージョンを見比べたけど、どれも違って、どれもすごいと思います。いまの世の中では、SNSによって操作された情報が蔓延しています。そのため、信頼できる客観的な情報を得ることが難しくなっています。僕が演じたキャラクターは、それを悪用していました。僕自身もマーケティング会社(『デッドプール』を機会に設立されたMaximum Effort社)を経営し、マーケティングにとても興味があるので、非常に考えさせられました」と、『スピリテッド』のテーマに共感した理由を説明する。
それを聞いたスペンサーが、「私はディケンズの原作から、どんな人でも救われるチャンスがあるのだというメッセージを受け取っていました。今作では、その“救済”がテーマの大きな部分を占めているところがとても気に入っています」と付け加えると、フェレルが「いま、『人は本当に変われるのか?』の問いを問うには、これ以上ない最適なタイミングでしょう。でも、『人に親切にしましょう』というメッセージは、クリスマスだけじゃなくて、1年中心がけるべきだと思うけどね(笑)」と、とぼける。3人の息の合った掛け合いは、映画1本と言わずシリーズにしてほしいほど。
『スピリテッド』は、SNSによる印象操作や分断といったとても今日的な事象を描きながら、年の瀬やホリデーシーズンに「クリスマス・キャロル」の物語が繰り返し観られている理由を印象付ける。この映画もまた、新しいクリスマスの定番として長く愛される作品になることだろう。
取材・文/平井伊都子