パリ留学中の和田彩花が語るフランス映画の醍醐味「作られた場所の文化や歴史、作り手のルーツなどが組み合わさっている」 - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
パリ留学中の和田彩花が語るフランス映画の醍醐味「作られた場所の文化や歴史、作り手のルーツなどが組み合わさっている」

インタビュー

パリ留学中の和田彩花が語るフランス映画の醍醐味「作られた場所の文化や歴史、作り手のルーツなどが組み合わさっている」

『ジャッキーと女たちの王国』「男女の立場を逆に描くことで、おかしな点が改めてあぶり出される」

また『ジャッキーと女たちの王国』(14)は、今回の特集のなかでもとりわけ個性的な作品だ。『ようこそ、シュティの国へ』と同じく映画会社パテの配給作品で、“バンド・デシネ(フランス文化圏のコミック)”の作家として知られ、父親がシリア人、母親はフランス人というルーツを持つリアド・サトゥフ監督が手掛けた長編映画の第2作。女性が権力を握る架空の国を舞台に、独裁者の娘との結婚を夢見る青年の奮闘を描くブラックユーモアあふれる作品で、今回が日本初配信となる。

女性が権力を握り、男性が家庭に入ることを求められる架空の国が舞台の『ジャッキーと女たちの王国』
女性が権力を握り、男性が家庭に入ることを求められる架空の国が舞台の『ジャッキーと女たちの王国』Jacky au Royaume des filles [c] 2013 - LES FILMS DES TOURNELLES – PATHE FILMS – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINEMA

架空の国ブブンヌ民主主義人民共和国では、女性が政治や軍事的権力を握り、男性はベールを被って、家事を行っている。20歳の青年ジャッキー(ヴァンサン・ラコスト)は、国中の多くの若い男たちと同様に、この国の独裁者である将軍の娘、大佐(シャルロット・ゲンズブール)と結婚することを夢見ている。そんななか、将軍が娘の結婚相手にふさわしい男を探すための舞踏会を開催することに。

「超おもしろかったです!男女の立場が逆になるという設定は、フランス映画に限らず、最近のフェミニズムの映画だと結構あると思いますが、本作は物語の舞台として、独裁政権みたいな架空の国を作り上げちゃっているところが独創的でした」とかなり楽しんだ様子。

【写真を見る】「シンデレラ」の舞踏会を男女逆転したら?『ジャッキーと女たちの王国』のおかしくて考えさせられるワンシーン
【写真を見る】「シンデレラ」の舞踏会を男女逆転したら?『ジャッキーと女たちの王国』のおかしくて考えさせられるワンシーンJacky au Royaume des filles [c] 2013 - LES FILMS DES TOURNELLES – PATHE FILMS – ORANGE STUDIO – FRANCE 2 CINEMA

その国の次期トップの結婚相手を探すために、大々的な舞踏会が開かれるというストーリーは、まさに「シンデレラ」のパロディ。「私はジェンダーの問題に関心があるので、もともとシンデレラ・ストーリーもおかしいなと思っていて。この映画では、男女の立場を逆に描くことで、そのおかしな点が改めてあぶり出されるという感じでした。男性の権利がないという描写はコミカルで笑っちゃうけれど、現実社会での問題と地続きになっているんです。もちろん純粋に楽しめるので、これを笑いながら観たあとに、現実でこの男女の関係性を反対にしたらどうだろうか?ということを、ぜひちょっと考えてみてほしいなと思いました」。

『少女は砂漠を越えて』「みんな、いろんなものを抱えながら生きているし、誰もが前向きに生きられるわけじゃない」

『少女は砂漠を越えて』(06)はもう一つの老舗フランス映画会社Gaumont(ゴーモン)から直接買いつけた、ほかでは観られない日本初公開のレア作品。第72回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『キャラバン』(94)のエリック・ヴァリ監督が、アフリカの雄大な砂漠を舞台に描いた少女の冒険物語である。主人公の少女グレースを演じるのは、ヴァリ監督の娘でもあるカミーユ・サマーズ。グレースの父親役を『眺めのいい部屋』(86)で一世を風靡したジュリアン・サンズが好演している。

砂漠で行方不明になった父親を救出しようとする少女の物語『少女は砂漠を越えて』
砂漠で行方不明になった父親を救出しようとする少女の物語『少女は砂漠を越えて』[c]2005 GAUMONT / LES FILMS DU DAUPHIN / France 3 CINEMA / THE TRAIL LIMITED / CASTEL FILMS srl / MIA FEATURES CC / MIN FILMS


14歳のグレースは母親の死をきっかけに、両親が離婚して以来、会っていなかった地質学者の父親に会いにアフリカへ向かう。しかし、再会の喜びも束の間、物資を届けに別の村に向かった父親の飛行機が、悪天候により砂漠に墜落。さらに墜落した場所で、砂漠のダイヤモンドをねらう集団に捕まり、帰れなくなるという事態に。警察の捜索でもなかなか行方をつかむことができないなか、グレースは父の友人であるアフリカ人のカジ(エリック・エブアニー)に懇願し、父を救出するための旅に出る。

「印象的だったのは、ダイヤモンドを採掘する武装集団のリーダーが、グレースのお父さんに『アフリカのどこが好きなんだ?野生の動物か?』って、皮肉交じりに笑いながら言うシーン。すごくハッとさせられました。外国の好きなところを挙げる時に、たとえそれが純粋な自分の探究心からくるものだったとしても、現地で暮らす人たちからすると、ちょっと無邪気すぎることがあるのかもしれないなと…」と振り返る和田。物語は少女の冒険ストーリーだが、そこには多くの“気づき”があったようだ。

14歳のグレースは父の友人であり、訳ありの過去を抱えたカジに協力を求める(『少女は砂漠を越えて』)
14歳のグレースは父の友人であり、訳ありの過去を抱えたカジに協力を求める(『少女は砂漠を越えて』)[c]2005 GAUMONT / LES FILMS DU DAUPHIN / France 3 CINEMA / THE TRAIL LIMITED / CASTEL FILMS srl / MIA FEATURES CC / MIN FILMS

「相手のルーツや背景に思いを馳せる」というスタンスは、和田がフランスで暮らすようになってから、より強く意識するようになったことの一つだという。「とにかく、(フランスは)いろんな文化が混ざった国だなって、すごく思います。ここで生きているのは、小さいころからフランスに住んでいるという人たちばかりじゃなくて。みんな、いろんなものを抱えながら生きているし、誰もが前向きに生きられるわけじゃない。他人の背景なんてまったく気にしなくても生きていけるような世の中でもあるからこそ、捕まったグレースのお父さんが、元は教師だったという武装集団のリーダーに『お前の過去にいったいなにがあったんだ?』と逆に尋ねるシーンが好きでした。観ている人に、相手の背景を想像させてくれる台詞だと思います」。

『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』「家事など、変わらないことを繰り返しているように見えることを、簡単につまらないとは言いたくない」

最後は『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(75)。ベルギー出身で、フランスを中心に活躍した映画監督のシャンタル・アケルマンのオリジナル作品で、日本でも今年、再上映イベントが大ヒットし、再評価の機運が高まっている。アケルマン監督が20代半ばという若さで撮り上げた本作は、フェミニズム映画の傑作と評された貴重な代表作だ。主人公の主婦ジャンヌ役を、女性解放運動の活動家でもあった女優、『去年マリエンバードで』(61)や『ブルジョワジーの秘かな楽しみ』(72)のデルフィーヌ・セイリグが演じている。

ジャンヌはブリュッセルのアパートで、思春期の息子と2人暮らし。毎日様々な家事をこなし、隣人の赤ん坊の子守りを引き受け、買い物へ出かけ、息子の身のまわりを清潔に保っている。規則正しい生活を続けているジャンヌだったが、ある日、その平凡な日常に少しずつほころびが生じていく。

ある女性が日々の家事を行う様子を淡々と映しだす『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』
ある女性が日々の家事を行う様子を淡々と映しだす『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』[c] Chantal Akerman Foundation

家事やジェンダー、セクシュアリティは、アケルマン監督にとって重要なテーマ。本作では定点観測のように設置されたカメラが、ただひたすら、ジャンヌが家事をする様子を淡々と映し続ける。「いままでに観たことがないタイプの映画でした。息子のパジャマを畳んで、枕の下に入れて、ベッドをソファに戻すとか、買ってきた豚肉に溶き卵と小麦粉とパン粉を順番につけて油で揚げるとか。些細な家事の一つ一つに、こんなにも工程があるんだという驚きは、この映画を観た多くの人が感じることだと思います。これを知ったら、主婦の方に『あなたは家にいるんだから、時間があるでしょ?』という言葉は言えなくなると思う」。

上映時間は201分。ラストまでストーリーらしいストーリーはなく、ジャンヌの日常が3日間繰り返されていく。「こういう映画を普段見慣れない人は、退屈に感じるかもしれない。だけど、“退屈”みたいな言葉をこの映画にぶつけてしまうと、それがそのまま、いままで主に女性が担ってきた家の中のことすべてがつまらないことに置き換わるような気もします。変わらないことを繰り返しているように見えることを、簡単につまらないとは言いたくないなと思いました」と強いメッセージ性を感じ取ったようだ。

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