橋本環奈&上白石萌音、舞台「千と千尋の神隠し」で魅せたそれぞれの輝き

コラム

橋本環奈&上白石萌音、舞台「千と千尋の神隠し」で魅せたそれぞれの輝き

橋本環奈、初舞台で見せた“成長”

千尋役は、橋本と上白石がダブルキャストで務めあげた。配信されている橋本主演版の主なキャストは、三浦宏規(ハク)、辻本知彦(カオナシ)、妃海風(リン/千尋の母)、橋本さとし(釜爺)、夏木マリ(湯婆婆/銭婆)といった面々。

橋本にとって、初めての舞台出演となった本作。イベントやトーク番組などでいつも明るい笑顔を弾けさせる彼女の最大の魅力は、力強い推進力だろう。小柄な身体のどこに秘めているのかという、太陽のようなエネルギーに満ちあふれている。そんな橋本が、本作の製作発表記者会見では「いままで緊張したことがない性格だと思っていたんですが、ここに立って初めて緊張というものを感じています」と明かしていたことからも、今回どれほどのプレッシャーを感じていたのかがわかる。

油屋で奮闘する千尋。彼女と一緒に成長した橋本環奈の姿をぜひ観てもらいたい
油屋で奮闘する千尋。彼女と一緒に成長した橋本環奈の姿をぜひ観てもらいたい

純粋な子どもの心を持つ千尋を演じるうえでは、橋本の透明感もより際立ち、見惚れてしまう瞬間も。配信版ではアジサイ越しに千尋を映しだすアングルがあるのだが、その美しさには思わず釘付けになった。また異世界に迷い込み「ここで働かせてください!」と訴える千尋のまっすぐな瞳、最初は気弱な表情で階段もソロソロと這うように降りていた千尋が、「ハクを助けたい!」と勇敢に走り出していく姿には、橋本の持つ底力が見事に反映され、まばゆいほどの輝きを放つ。こちらまで元気付けられるような千尋の登場に、改めて橋本は人々を励ますことのできる特別なパワーを持った女優なのだと実感した。

ハクを助けるため、油屋に来た時とは別人のように勇敢になる千尋
ハクを助けるため、油屋に来た時とは別人のように勇敢になる千尋

戸惑いながらもたくさんの出会いを経て、誰かのために動けるまでに成長していく千尋は、不安のなかで“舞台”という未知なる場所に足を踏み入れた橋本の心境とピタリと重なるものだ。当時の彼女だからこそ見せられた瞬間を捉えた本作は、女優・橋本環奈の分岐点を目撃する意味でも見逃せない。ドキュメンタリー番組「情熱大陸」では、「千尋と共に成長できる気がする」とキッパリと語っていた彼女。スタンディングオベーションを浴びたカーテンコールでの晴れやかな笑顔を見ていると、その予感が的中したことに間違いない。


上白石萌音からあふれだす“優しさ”

配信されている上白石主演版の主なキャストは、醍醐虎汰朗(ハク)、菅原小春(カオナシ)、咲妃みゆ(リン/千尋の母)、田口トモロヲ(釜爺)、朴璐美(湯婆婆/銭婆)ら。

泣きじゃくる千尋を上白石萌音が映画そのままに体現。背景の木花も演者によって忠実に再現されている
泣きじゃくる千尋を上白石萌音が映画そのままに体現。背景の木花も演者によって忠実に再現されている

これまでも舞台での実績を積み重ねてきた上白石だけに、本作でも表現力に加え、舞台上での見せ方といった面でもズバ抜けた才能を発揮している。冒頭から、声の出し方、Tシャツの裾をギュッとつかむ仕草、ガニ股気味に地団駄を踏む様子など、舞台上に現れた千尋は10歳の少女そのもの。ハクからおにぎりをもらってワーンと泣きじゃくる少女らしい一コマは、配信版ではハクが千尋の涙を拭う仕草もわかるのでご注目。生オーケストラとの息もぴったりで、上白石は劇場の隅から隅まで、千尋という存在をしっかりと届けてみせる。

上白石萌音からあふれだす優しさや、カオナシとのやり取りにも注目だ
上白石萌音からあふれだす優しさや、カオナシとのやり取りにも注目だ

上白石の女優としての大きな魅力は、舞台で躍動するしなやかさと、どんな瞬間も彼女自身の春風のような優しさがにじみでることだと感じる。製作発表記者会見の場では、緊張をほぐすように橋本の背中にポンと手を置いていたし、イベントや舞台挨拶でも彼女がさりげない気遣いを見せる場面をよく目にする。そして本作にも、たっぷりとその優しさが注がれていた。例えば、千尋が雨に濡れるカオナシに「そこ、濡れませんか?ここ開けておきますね」と語りかける思いやりに満ちた表情は、彼の孤独を解放する説得力もたっぷり。電車に乗って銭婆のもとへ向かう道中、ネズミとハエドリに「肩に乗っていいよ」と背中を預けようとするひと幕も、千尋の見せる慈愛にほっこりとするシーンとなっている。上白石の笑顔に触れると、心にポッと灯りがともったような気持ちになる人も多いことだろう。コロナ禍にお目見えした上白石=千尋は、人々を癒す力にあふれているようで大いに心を打たれた。

公開から21年が経ったいまも、新たな感動を与えてくれる「千と千尋の神隠し」
公開から21年が経ったいまも、新たな感動を与えてくれる「千と千尋の神隠し」[c]2001 Studio Ghibli・NDDTM

ダブルキャストで千尋を演じることには、大きなプレッシャーがあったと想像するが、製作発表記者会見において橋本と上白石は、「一緒にいると安心感がある」と声をそろえていた。さらに公演が始まると会えなくなるという理由から、2人が交換ノートで気持ちを伝え合っていたという美しいエピソードも。大役を果たし、戦友となった橋本と上白石がこれからの日本エンタメ界を担っていくと思うとなんとも心強い。ぜひこの機会に両バーションとも鑑賞して、彼女たちのきらめきを目にしてほしい。

文/成田おり枝

■舞台「千と千尋の神隠し」
【配信期間】〜12月18日(日)23:59
【配信形態】TVOD(レンタル)
【配信価格】各5,500円(税込)/視聴期間:7日間
【配信先一覧】https://www.tohostage.com/spirited_away/onair.html
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