映画パーソナリティ・伊藤さとりが語る”天職”に巡り合うまで

インタビュー

映画パーソナリティ・伊藤さとりが語る”天職”に巡り合うまで

「人とのつながりで仕事が増えていった」

――最初から映画関連のお仕事に就いていたわけではないんですね。

「そうなんです。タイヤメーカーに就職したのですが、その1年後に結婚退職をして、結婚相手の転勤で大阪に行くことに。そんなお休みの間に、レースの司会というお仕事を見つけてオーディションに受かり、19歳で司会業の世界に飛び込みました。そんななかで映画関係の仕事をしている人に出会ったんです。とにかく映画を紹介する番組を作りたかったので、どうすれば番組を作れるのか聞いたんですが、『企画書をTV局に売り込めば?』と言われて。それで素直にやってみたら、ケーブルTV局で番組を持たせてもらうことになりました。編集、ナレーション、原稿作成もすべて1人で行うことが条件だったのでかなり大変でしたが、苦労よりも夢だった映画番組を作れることが嬉しすぎて、無我夢中で取り組みましたね。24歳で業界的にはまだ駆け出しの時だったので、食レポや街頭インタビューなんかもやりました。その時の経験が、いまの映画の司会業に活きていると思います」


『レヴェナント: 蘇えりし者』の完成披露試写会ではレオナルド・ディカプリオが来日!
『レヴェナント: 蘇えりし者』の完成披露試写会ではレオナルド・ディカプリオが来日![c]2018 ITO SATORI

――まわりの人の助言と行動力のたまもので、いまの仕事につながったんですね。

「ケーブルTV局で番組を持たせてもらってから、その人にお礼を伝えに行ったんです。そしたら『映画のイベントの司会をやってみない?』と声を掛けてくださって。その後は口コミで広がり、いろんな映画会社から司会の仕事を、出版社からは映画評論を、TV局やラジオ局からは映画解説の仕事をもらえるようになりました。人とのつながりのおかげで仕事が増えていったんです」

「映画に関わる仕事にこだわりました」

――いざ映画パーソナリティになって、大変だったことはありますか?

「当時は『映画パーソナリティ』という肩書きは存在していなかったと思います。私は映画に関わる仕事がやりたかったので、フリーアナウンサー的なお誘いもあったのですが断ってしまいました。仕事がない時は、カフェでバイトもしていましたね。映画の仕事に関われていれば幸せという気持ちでした。とにかく、“映画の人”として見てほしかったんでしょうね。物欲もあまりなかったですし、変わっているのかもしれません(笑)」

――夢を叶えるためには、一つのことを追い続けたほうがいいのでしょうか?

「わからないです。私はたまたまなんでしょうね…。正解はわかりませんが、挑戦したことは無駄にはならないと思っています。あとは、自分のキャパシティを知ることも大事だと思っています」

――キャパシティとは?

「例えば、いろいろな仕事に手を出しても大丈夫な人もいる。ですが、私は自分を不器用だと思っていて、いまは映画に関連することと子育てに時間を費やしています。映画には邦画、洋画、アジア映画など様々なジャンルがある。戦争のドキュメンタリーを観たら、戦争の内情や政治について気になりますよね。ある監督とお仕事することになったら、その監督の以前の作品やバックボーンが気になるなど、すべて観ていたら全然時間が足りないんです」

――仕事の前にとことん作品や人と向き合っているからこそ、仕事をした人たちとの信頼が生まれているんでしょうね。ちなみに、いままで言われて印象に残っている言葉はありますか?

「誰かに言われた言葉ではないのですが、スペインの俳優、アントニオ・バンデラスが来日した時に言っていた言葉が印象に残っています。もともとスペインの大人気俳優だったのですが、『ハリウッドに進出するにあたって躊躇はなかったのか』と記者に聞かれて、『捨てる勇気を持つことが必要だ』って答えたんです。なにか欲しいものがあるのであれば、手放す勇気も必要だって。それってすごいなと思って。私はその言葉をちょっと違う解釈で考えているんです。人間にはその人に見合った、抱きしめられる大きさがあって、その大きさを超えてしまったら包み込めない。だから、本当に欲しいものがあった時は、持っているものを手放す勇気がなくちゃいけないんだって思っています」

スペイン出身でハリウッドで成功したアントニオ・バンデラス
スペイン出身でハリウッドで成功したアントニオ・バンデラス[c]EVERETT/AFLO


――夢をもって生きている人にアドバイスをするなら?

「難しいですが…とにかく、私は私を信じていました。『英語ができないなら映画紹介はできない』と言われても、自分のいいところや、やりたいと思う気持ちを信じていたんです。英語ができなくても、プロの通訳さんがいる。彼らの力は日常英語を勉強した程度では適わないくらいすごいのだから、私は日本の人たちの代弁者として、日本語を突き詰めたかった。なにかを探究するエキスパートに憧れていたんです。だから、生き方の贅沢はしない。限られた時間の中で自分が一番興味があることや、一番調べたいものに時間を費やすことに喜びを感じていたから、いまがある気がします」

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