三浦透子、デビュー20年の歩み。順調なキャリアスタートは「コンプレックスでもあった」たどり着いた充実のいま
「『ドライブ・マイ・カー』で私という存在を知っていただけたことは、とてもうれしいこと」
本作に注いだ情熱に触れても、三浦が思考を深めながら、真摯に俳優業に取り組んでいることが伝わってくるが、今年の出演ドラマでも視聴者に鮮烈な印象を残している。2002年にCM出演で芸能界デビューし、まさにいま充実の時を迎えている彼女。これまでの軌跡を振り返ると「20年か…長い!」と笑いながら、「ずっと『いつ辞めてもいいんだ』と思いながら、ここまで進んできました」と胸の内を明かす。
「この世界に入ったきっかけとなったのが、なかなか大きな仕事で。そこから順調にキャリアがスタートして、目の前に仕事があるという恵まれた状況。でも自分自身としては、そういったスタートがコンプレックスでもありました。『映画やドラマに関わる仕事がしたい』という強い憧れを持って、この世界に入ってきている方に出会ったりすると、自分には果たしてそういう気持ちがあるのだろうか…と考えることもあって。だからこそこの仕事とは違う世界に触れてみようと、たくさんアルバイトもしましたし、大学にも通いました。『この仕事は自分で選んだものなんだ』と自覚するために、『この仕事はいつ辞めてもいいんだ。辞めるハードルは決して高くない。でもあなたの意志で、この仕事が楽しいから続けているんですよね?』とずっと自分に問い続けてきたようなところがあります」。
自問自答するなかでは、たくさんのすばらしい出会いもあった。本作に友情出演している北村匠海とは、2012年に映画化も実現した学園ドラマ「鈴木先生」で共演を果たしている。三浦は「一番いろいろなことに悩んだり考えたりする思春期の時期に、『鈴木先生』に出演させていただいて。『鈴木先生』は映画化もされて、関わっているスタッフさんも映画の世界でお仕事をされてきた方が多かったんです。そういった方々とのお仕事は充実したものがあって、『映画のお仕事がしたい』という気持ちが湧きあがりました」と回顧。
第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』への出演も、宝物のような経験になったという。「『ドライブ・マイ・カー』で私という存在をたくさんの方に知っていただけたことは、とてもうれしいこと。私にオファーをしてくれる方のほとんどは、『ドライブ・マイ・カー』を観たという方が多いと思うんです。私が演じたみさきという役は、私自身が大事にしたいと感じていることが反映されているような、『こうありたい』と思える理想の女性でした。そういった役を通して、『あなたにオファーしたい』と言っていただける仕事だとしたら、自分から遠いと感じるような役でもチャレンジできるかなという気がしています」と、自分の背中を押してくれるような存在になっていると話す。
「私が魅力的だなと思う役者さんって、どんな役を演じていても、その人自身やその人の哲学がにじみでるような人。私も、そういった役者になりたいなと思っています」と明かした三浦。今日に至るまでは、どのような歩みが必要だったのだろうか。「私はできないことが多いので…。ものすごく不器用だし、嘘とかも苦手だし」と照れ笑いを浮かべながら、「シンプルなんですが、私にできることを丁寧に一つずつ積み重ねてきました。特別なことはしていなくて、本当にそれだけなんです。するとそんな私でも『呼んでみたい』『それがあなたの個性だ』と声をかけてくださる方がいて、それが次へとつながっていった。いま、どんどんありのままの自分でいやすくなっているので、私はとても恵まれているなと思っています」と感謝をあふれさせる。嘘のない俳優だからこそ、三浦透子は人々の心をつかんで離さないのだと実感した。
取材・文/成田おり枝