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こだわりたいのは“匿名性”。『わたし達はおとな』の若き才能、加藤拓也との刺激的な対話【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】

インタビュー 2022/6/22 13:00

こだわりたいのは“匿名性”。『わたし達はおとな』の若き才能、加藤拓也との刺激的な対話【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】

一口にテレビ局が製作幹事を務めたり製作委員会に入ったりしている映画と言っても、それは玉石混交。正直に言うなら圧倒的に「石」のほうが目立つとはいえ、もちろん作品ごとに精査していく必要があるわけで、『勝手にふるえてろ』『寝ても覚めても』『愛がなんだ』『本気のしるし』『his』と近年製作に入った作品をこうして並べてみるだけで、メ〜テレ(名古屋テレビ)が日本映画界で重要な目利き的な役割を果たしてきたのは明らかだろう。

そんなメ〜テレが新たに立ち上げたシリーズ、(not) HEROINE moviesの第1作『わたし達はおとな』で監督と脚本を務めることとなった加藤拓也。演劇界では名の知られた劇作家・演出家の新鋭で、脚本家(エピソード演出も)として参加した昨年NHKで放送された「きれいのくに」ではその斬新な設定やストーリーが話題を集めたことも記憶に新しいが、長編映画は本作が初めて。もっとも、10代のころから映像作品にも取り組んできた加藤拓也の存在は、「人気劇作家が映画界に進出」というありがちな流れとは別のところにある。

藤原季節と⽊⻯⿇⽣が、妊娠をきっかけに価値観がずれていくカップルを演じ切った
藤原季節と⽊⻯⿇⽣が、妊娠をきっかけに価値観がずれていくカップルを演じ切った[c]2022「わたし達はおとな」製作委員会

「物語を書いた時に、これは映画だな、これは演劇だなっていう、“歯ごたえ”みたいなものがあって。それによって形式を選んでいる」と語るそのニュートラルな姿勢は、作品を観れば一目瞭然。カメラの位置から人物の動かし方まで、『わたし達はおとな』における一見自然体のようでいて実は計算され尽くされた演出は、この物語を語る際に映画という“手法”が選ばれた必然に満ちている。撮影の技術進化やローコスト化も背景にあるのだろう、近年、世界的にも「デビュー作でいきなりここまで撮れるのか」と驚かされる若い世代の映画作家の台頭が目立つが、日本映画的風土とはまったく異なる場所から出てきた加藤拓也の長編映画監督デビューも、その文脈で捉えたほうがいいのかもしれない。

劇作家ならではの台詞の研ぎ澄まされた言語感覚、即興演出への忌避感、そして作品内だけでなく自分自身にも向けられた匿名性へのこだわり。インタビューの端々から滲み出る自信とその新しい感覚は、日本映画の未来を変えていく予感に満ちていた。

「大事にしたかったのは、観客が主人公やその恋人の生活を“覗いている”という感覚」(加藤)

「劇団た組」主宰、弱冠28歳の加藤拓也監督
「劇団た組」主宰、弱冠28歳の加藤拓也監督撮影/河内 彩

宇野「加藤さんは演劇界で大変注目されている劇作家でもあるわけですが、長編映画を監督されたのは今回が初めてですよね?」

加藤「初めてです」

宇野「初めてでこんなに撮れるんだと、そのことにまず驚いて。しかも、まだ28歳なんですよね?」

加藤「ただ、映像作品も18歳くらいのころから作ってきて、ミュージックビデオや短い作品も未公開のものを含めれば30本くらいあると思います」

宇野「ということは、演劇界で足場を築いてから映画界にも進出という、劇作家の方にわりとよくあるキャリアの歩み方とはちょっと違うということですね」

加藤「僕は基本的に好きなものを好きなように作れたらいいと思っています。物語を書いた時に、これは映画だな、これは演劇だなっていう、“歯ごたえ”みたいなものがあって。それによって形式を選んでいる感じです」


宇野「これまでも短編作品やCMなどで組んできた撮影の中島唱太さんの貢献もあると思うのですが、『わたし達はおとな』は非常に画作りが印象的な作品で。これはちょっと偏見かもしれませんが、演劇畑にいた方が映画を撮るとなった時に『これ、別に演劇でもいいんじゃない?』みたいな作品も正直あるんですよ。フィックスの画が多かったり、ほとんどが室内シーンだったり。『わたし達はおとな』も室内シーンが比較的多い作品ではありますが、手持ちのカメラを駆使して、極端な寄りのショットだとか、意外性のある物越しのショット――例えば階段の手すり越しに人物を捉えたショット――だとかをものすごく効果的に使っていて、画面全体が非常によくデザインされていることに感心しました」

【写真を見る】藤原季節と木竜麻生カップルの生活を“覗き見”しているかのようなリアリティ
【写真を見る】藤原季節と木竜麻生カップルの生活を“覗き見”しているかのようなリアリティ[c]2022「わたし達はおとな」製作委員会

加藤「一番意識していたのは、どうやったらカメラで主人公の優実(木竜麻生)の心情に寄り添えるかということです。普段からはあまり選ばないような詰めたサイズのレンズをオーダーして、めちゃくちゃ動きも作ったので」

宇野「“詰めたサイズ”というのは、広角ということですか?」

加藤「そうです。普通、室内で人物を映したかったらこれぐらいのサイズで、というところから2段階ぐらい寄っているんですよ。大事にしたかったのは、観客が主人公やその恋人の生活を“覗いている”という感覚で。映画を観る慣習のなかで、観客が無意識に理解しているカメラの役割っていうものがあると思うんですけど、それを自分たちで再定義していった感じでしたね」

試行錯誤したというカメラアングルで実現した“覗き見”感
試行錯誤したというカメラアングルで実現した“覗き見”感[c]2022「わたし達はおとな」製作委員会

宇野「確かに、例えばホテルの室内シーンも敢えてドア越しに撮っていたりして、“覗いている”感がありますよね。今作を観ていてどこか後ろめたさのようなものを感じるのも、そのせいかもしれない」

加藤「そういう、“カメラの役割について改めて考える”ということが、僕のなかで演劇と映画とで違うところでもありました。演劇の場合、観客は基本的に舞台のどこを観てもよくて、でも、それが映画になるとカメラを使って観客と芝居と物語を結ばなきゃいけない。そこが一番考えさせられるところだし、自分にとって映画作りのおもしろいところですね」

宇野「画面の構成もそうですし、登場人物の動きに関しても、一見すごく自然に見えますけど、綿密な演技プランの通りに役者に動いてもらってる感がひしひしとあって。かなり計算し尽くしてますよね?」

加藤「リハーサルを1週間やって、そのなかでカメラワークやレンズサイズを試行錯誤しながら決めていって、そこから本番撮影に臨んだっていう感じですね。計算と言えば計算ですけど、当たり前と言えば当たり前のことじゃないですか。みんなでいきなり集まって、よーい、どん!で、その日にすごくいいものが撮れるかっていったら、疑問なので。『準備をちゃんとしましょう』ということは、現場のみんなに最初から伝えていたことです」

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