“国民的年下彼氏”チョン・ヘインが主演作「コネクト」で見せた、孤独を越える強さ
三池崇史監督との縁は運命?「コネクト」で見せたチョン・ヘインの新境地と真骨頂
祖国のための任務と愛する人への感情との間で板挟みになる北の工作員を演じた「スノードロップ」。不慮の事故で同級生を死なせてしまい少年院へ送致されたことをきっかけに、上手く社会復帰が出来ずもがく青年役の『ユ・ヨルの音楽アルバム』(19)。子どもを残して失踪した恋人が忘れられないシングルファーザーに扮した「ある春の夜に」。興味深いことに、チョン・ヘインが演じてきたほとんどのキャラクターに、孤独という属性がある。
ここで、「コネクト」の三池崇史監督のフィルモグラフィーにも少し触れてみよう。どんな作品でも映画化する手腕を持つ三池監督だが、近年の作品に目をやると、不老不死でただ一人生き続ける伝説の人斬りを描く『無限の住人』(17)や、余命宣告を受けたボクサーと闇社会で搾取されながら生きる少女の逃亡劇『初恋』(20)など、“原作もの”にしろオリジナルにしろ、監督もまた孤独な存在を好んで映画に登場させている。三池組初の日韓共同製作にチョン・ヘインが参加したというのは、何か運命的な出逢いのように思う。
ドンスは子どもの頃、事故に遭っても再生して元通りになる姿を目撃した周囲から「化け物」と恐れられたことが心の傷となり、社会から外れて生きている。それでも、音楽の才能があるドンスは、自作曲をネットに上げることで人と繋がろうとする。インターネットなら、自分の本当の姿をさらけ出さなくても良いからだ。だがシーズン1終盤では、殺人事件にかかわってしまったことや、同じ“コネクト”であるイラン(キム・ヘジュン)との交流によって、隠れるのではなく“コネクト”という異能を使いながら社会で生きていくことを選択する。アウトサイドを歩く者たちがエキセントリックなやり方で境遇を打破していく展開は、「コネクト」は、先に挙げた三池監督の過去作にも通じるところがある。
チョン・ヘインによれば、彼が三池監督にキャスティングの理由を尋ねると「あなたの作品を観て、無条件に出演して欲しいと思った」と答えたそうだ。確かにドラマを観ていると、隻眼の主人公を演じさせるのにチョン・ヘインほど適役はいなかったようにも感じる。失った片目をアイパッチで隠しながらこちらを見据えるチョン・ヘインの眼差しに、視聴者は終始向き合うことになる。一重まぶたの奥にそっと隠れた瞳に宿る、陰りと優しさ。そんな瞳を持つチョン・ヘインを、ここまで眼に注目させる作品へ抜擢したのは、やはりベテランの持つ審美眼だったのではないだろうか。
チョン・ヘイン「撮影現場では、ベースのような存在でありたい」
「現場作業は一つのオーケストラだと思う。楽器ごとに異なる音を一つのアンサンブルにするのが楽しい。バンドでたとえば私はリードギターよりはベースになりたい。全体のトーンをつかみ黙々と弾いて、その上でふっくらと飛び散る様々な個性たちとハーモニーを作る楽しみがある」と話す。彼の演技を見ていると、この俳優哲学がよく理解できる。孤独な主人公というのは、さして珍しくはないかもしれない。チョン・ヘインが表現してきたキャラクターに私たちが惹かれるのは、彼らが弱さや寂しさを打ちひしがれているのではなく、肯定しながらも乗り越え、他者と共鳴しようとするからだ。大切なのはパワーではなく、ハートの強さである。孤独でも誰かを大切に思うことは出来るということを、作品の中で表象化してきたのだ。
「コネクト」シーズン2も楽しみだが、末っ子刑事としてファン・ジョンミン扮する熱血刑事ソ・ドチョルとタッグを組む『ベテラン2』も2022年12月にはクランクインし、「D.P. -脱走兵追跡官-」シーズン2の配信も待ち遠しい。正統派ラブストーリーからホラーまで演技のスペクトルを広げたチョン・ヘインの躍動は続く。
文/荒井 南