授賞式の夜を涙と歓声に包んだ、ミシェル・ヨー&キー・ホイ・クァン。第80回ゴールデン・グローブ賞を総括
パンデミックと放送中止を受けて、3年ぶりにビバリーヒルズのホテルで候補者や招待客を招き開催された、第80回ゴールデン・グローブ賞。マスクなしが日常になったLAでは珍しく、出席に際して48時間以内のPCR検査陰性反応の提出を求められた。
受賞結果は、映画部門で『イニシェリン島の精霊』がミュージカル/コメディ部門作品賞、同主演男優賞(コリン・ファレル)、脚本賞(マーティン・マクドナー)の3部門を受賞して最多、続いて『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』がミュージカル/コメディ部門作品賞、同主演女優賞(ミシェル・ヨー)、助演男優賞(キー・ホイ・クァン)、『フェイブルマンズ』がドラマ部門作品賞、監督賞(スティーヴン・スピルバーグ)が2部門と続いた。ドラマ部門では、『アボットエレメンタリー』(Disney+)がミュージカル/コメディ部門作品賞、同主演女優賞(クインタ・ブランソン)、助演男優賞(テイラー・ジェームス・ウィリアムス)の3部門、『ホワイト・ロータス』シーズン2(U-NEXT/HBO Max)がリミテッドシリーズ/テレビムービー作品賞と同助演女優賞(ジェニファー・クーリッジ)が2部門。映画部門もテレビ部門も、そのほかの作品が1部門ずつと賞を分け合う結果となった。
このように賞が分散される理由には、作品そして選者が多様化していることにある。映画部門最多受賞の『イニシェリン島の精霊』は、およそ90年前のアイルランドの孤島を舞台にした悲喜劇。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、中国系移民の一家がIRS(国税局)の担当官(ジェイミー・リー・カーティス)に締め上げられ、マルチバースへ突入してしまうという奇想天外なSF作品。『フェイブルマンズ』は、特異な才能によって両親の秘密に気づいてしまった少年が、その力を自分と世界をつなぐために使うまでの物語だ。
監督賞を受賞したスティーヴン・スピルバーグは、「これは、私が17歳のころに封印した物語でした。これらのパーツを、自分のキャリアを通じて映画に活かしてきました。『E.T.』や『未知との遭遇』には大きな影響があります。(共同脚本の)トニー・クシュナーに出会うまでは、この物語に向き合う勇気がありませんでした」と受賞スピーチで語った。ここまで培ってきたものによって、ようやく自分が困難な少年時代を過ごしていたことを自認することができたという。「巷では成功者と捉えられているかもしれませんが、勇気を持って自分自身の物語を語るまでは、誰も本当の姿を知ることはありません。74歳になってようやくできたのです」と、半自伝的作品の起源を話した。
昨年は、主催のハリウッド外国人記者協会(HFPA)の閉鎖的な体質が批判の的となりテレビ中継が中止された。第80回の投票者はアメリカ在住で外国媒体に寄稿・配信するジャーナリスト93名に加えて、103人の国際批評家連盟(FIPRESCI)に属する米国外投票者が新しく加わり、出身国は62カ国に及ぶ。ゴールデングローブ賞を“前哨戦”に位置付けるアカデミー賞も、数年前から候補者が白人に偏っている状況を批判され、積極的に外国人や人種・性的少数者を新規会員に招き、現在の分布は82か国となった。
これだけの多様性に富んだ視点をもって印象に残った作品を選ぶわけだから、賞が分散するのは当然のなりゆきと言える。一方、同じく前哨戦と呼ばれるアメリカのテレビ、ラジオ、出版、ウェブなど500人余りの批評家による放送映画批評家協会賞では、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が作品賞、監督賞、脚本賞、助演男優賞の4部門と主要賞を独占し、『フェイブルマンズ』は若手俳優賞のみ、『イニシェリン島の精霊』は無冠という結果だった。
トロフィーの行方は分散したが、それぞれの受賞者によるスピーチからは、多様性の中から普遍性を抽出するようなメッセージが伝わってきた。子役として『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(84)や『グーニーズ』(85)で活躍したキー・ホイ・クァンが、30年ぶりに映画に出演した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で掴んだ助演男優賞を涙ながらに語ったスピーチは、SNSでも多く拡散された。「私は、ルーツを忘れるなと育てられました。最初のチャンスをくれた人への恩を忘れてはいけない、と」と話し始め、会場にいるスティーヴン・スピルバーグ監督に感謝を述べた。「子役として活躍し、とても幸運でした。でもそれから長い間、子ども時代の栄光を超えることができませんでした。その時の子どもを覚えていた二人の監督が30年後に私のもとを訪れ、再びチャンスをくれました」と続け、監督・脚本のダニエルズや共演者、スタッフに賛辞を贈った。
同じように、ドラマ部門主演男優賞を受賞したオースティン・バトラーは、“マイ・ヒーロー”としてブラッド・ピットや、12歳の時に『パルプ・フィクション』の脚本を読んで俳優を目指すきっかけとなったクエンティン・タランティーノ、バズ・ラーマンやトム・ハンクス、プレスリー家の名前と共に、デンゼル・ワシントンに感謝を述べた。ワシントンこそ、知り合いでもないラーマン監督に電話をかけ、バトラーをエルヴィス役に推した恩人だからだ。ミュージカル/コメディ部門主演男優賞を受賞したコリン・ファレルは、まずプレゼンターのアナ・デ・アルマスに対し、『ブロンド』での演技を褒め称えた。