俳優・小池徹平らスピルバーグ映画に影響を受けた3人が語る、新作『フェイブルマンズ』の魅力
「家族の物語と、映画の本質を映した作品」南波克行(映画評論家・批評家)
大学で映画に関する講義を行い、「スピルバーグ 〈宇宙〉と〈戦争〉の間」(竹書房)、「スティーブン・スピルバーグ論」(フィルムアート社)など、スピルバーグ監督作品について研究を重ねている映画評論家・批評家の南波克行。彼は最新作『フェイブルマンズ』から“子ども時代の経験”の大切さを語る。
「この映画は子どもの時の体験が、いかに重要かを教えてくれる。巨大なものへの畏怖、少女の叫び…後のスピルバーグ作品を思わせる起源がすべてここにある。カメラを手にした主人公サミーは、映画を作ることで喪失と救いの両方を経験する。喪失とは、カメラが意図せず真実を映してしまうこと。楽しかった家族キャンプの映画が一転、家族崩壊の原因になってしまう。そして救い。ユダヤ系の出自でいじめられるサミーは、ナチスの映画作家レニ・リーフェンシュタールを思わせる、扇情的な映画を作って窮地を脱する。その皮肉と矛盾。映画とは真実をとらえると同時に大嘘もつけるのだ」
山崎監督同様、南波の強く印象に残ったと語るボリス大伯父さんの存在。ボリスがサミーに語った言葉に少し違和感を覚えたという。「さらに、不意に登場して強い印象を残すボリス大伯父さんは、家族と芸術は両立できないとサミーに説く。でも本当にそうだろうか。スピルバーグは対立するもの同士、どうすれば手を握れるかの両立を常に考え、そこに感動を生んできた。それは嘘と真実、真逆の2つが結びつく映画の本質に原点があったのだ。『フェイブルマンズ』は家族の物語を美しく描きつつ、映画の虚と実は同時に、暴力さえ凌駕する可能性をも暴く。そのことを映画史上もっとも多くの観客を得たスピルバーグが語るからこそ、さらに大きな意味を持つ」
映画好きなら誰もが通ったスピルバーグ作品。そんな作品の根源ともいえる、スピルバーグの“自伝的”ストーリーである『フェイブルマンズ』に、あなたならどんな感想を抱くだろうか。ぜひ自身の目で確かめてみてほしい。
構成・文/月刊シネコンウォーカー編集部