原作者・安田弘之&今泉力哉監督が語り合う、いまを生きる人が『ちひろさん』に癒される理由「人は誰もが“見抜かれたい”」
「語らずしてしっかりと語っているのが、有村架純さんのすばらしいところ」(安田)
――安田さんのTwitterでも「原作者大満足!」と本作に太鼓判を押されていました。
安田「僕、滅多に太鼓判を押さないんですよ!」
今泉「原作ものをお預かりするのはやはり怖いものですから、そのお言葉は本当にうれしいです。もちろん初めて触れる方にも喜んでいただきたいですが、まず原作者の方や原作ファンの方におもしろがっていただけるものにしたいと思っていました」
安田「僕の描いた9巻分の漫画から2時間ほどの映画にするためには、『どのエピソードを拾うか』ということにものすごくご苦労されたと思うんです。僕はいろいろなエピソードやメッセージを雑多に煮込んでいますから(笑)。どのように料理するんだろうと思っていたら、僕が提供した食材を丁寧に、大事に扱って、そのよさを引きだすような料理にしてくれていた。大感激で、太鼓判を押しました。原作と同じエピソードを描いていても、微妙に絡んでいるキャラクターが違ったり、セリフもアレンジされていたりするんですが、それがいちいちうまい(笑)。なによりうれしかったのが、作品の世界がベタベタした空気感になっていなかったことですね」
今泉「あはは!その感覚が似ているのは、本当に大きいと思います」
安田「基本的に僕は、『家族っていいよね、恋人っていいよね』というところに向かっていく話が嫌なんですよ(笑)」
――有村架純さんが、ちひろさんを演じています。有村さんにお願いしてよかったなと思うのは、どのようなことでしょうか。
今泉「ちひろさん役には、孤独がどのようなものかを知っている人にお願いしたいと思っていました。有村さんはきっとそれをわかっている方だなと。またイベントなどで有村さんのお話を聞いていても、ものすごく丁寧に言葉を発しますよね。世界の状況や社会的なことも含めていろいろなことを考えながら、自分の言葉として発信している。有村さんの真摯な姿を見ていると、ちひろさんを演じるうえではそういったまじめさも大事だったんだなと感じています。今さら気づいたんですけど」
安田「ちひろは、めちゃくちゃまじめですよ」
今泉「フワフワしていて適当に見えるけれど、ものすごくまじめですよね」
安田「だからこそ、ちひろは妥協ができない人でもある。人間ってだいたい不まじめさがあるからこそ、みんなと仲良くなれるし、うまく生きていけるもの。“人とうまくやれる”というのは、自分の気持ちにある程度の嘘をつけるからだと思うんです。ちひろは、“自分にも嘘をつかない”という徹底したまじめさを持っているんです」
――安田さんは、実写として現れたちひろさんを見ていかがでしたか?
安田「漫画だからこそ描けるキャラクター、実写に置き換えられない存在を生みだすというのが、漫画家としてのチャレンジで、自負しているものでもあります。『実写にはできないぞ』と思いながら、描いていました。今回の実写化でも、誰がちひろを演じても『ちょっと違うな』という引っ掛かりが出てくるだろうと思っていたんです。それをいい感じに裏切られました(笑)。僕が描いたちひろとは微妙に違うんですが、それでもちひろとしての存在感がブレていない。ちひろがお墓参りに行くシーンがありましたが、漫画だとお墓のお母さんに向かって、ちひろが『こう思っていたんだよ』ということをセリフで語りかけています。実写版では、それをセリフではなく、表情やたたずまいで表現していました。語らずしてしっかりと語っているのが、有村さんのすばらしいところだと思いました」