ジェームズ・キャメロンが語る、『タイタニック』考察飛び交うラストシーンの“答え”
「この映画のテーマは、当時よりも現在の方がよりタイムリー」
『タイタニック』がなぜここまで成功する映画となったのか。“3時間を超える長尺の作品は儲からない”という通説を覆し、25年経ったいまでも世代を超えてファンを獲得しつづけている。「若い女性たちがレオナルド・ディカプリオに魅力を感じたのだと当時からずいぶん言われてきましたが、本当の理由はそこではないと思います」とキャメロン監督は断言する。
「まずこの映画はローズの話です。彼女が成長する話で、そのきっかけをくれるのはジャックですが、彼女は生き延び、映画の最後で“その後”の人生についての写真を見せてくれる。彼女は103歳まで、自分の潜在性を十分に活かしたすばらしく豊かな人生を送ることができたのです。それが、社会から“こうあるべきだ”と押し付けられていることに疑問を感じていた女性の観客たちに共感され、またそうしたことを重要だと考える男性にも届いたのだと私は考えています」。
続けてキャメロン監督は「悲劇であること」も成功の理由の一つとして分析する。「映画の最後で2人は一緒になる。若い頃に起きた出来事を、103歳の女性は明確に覚えていて、いつか愛した人とまた会えると信じている。愛する人がいる人なら誰しも、死がいつか自分たちを引き離すことは想像できるでしょう。そしてまた会える可能性について考えるでしょう。この映画では美しいことや激しいことがたくさん起こりますが、すべてあのラストへつながるのです。難しいことは全部忘れたっていい。素直に感情で受け止めていいのです」。
さらに本作には「格差」というサブテーマがあることを挙げ、「持つ者と持たない者。生き残る人と死ぬ人。三等船室の男性客の多くが犠牲となり、女性や子どもも半分が亡くなりました。一方で一等船室の男性客は半分が亡くなり、女性と子どもは数名を除いて皆生き残りました。なにか危機が起きた時、貧しい者たちになにが起こるのか。富を持つ人々にはなにが起こるのか」と、いま現在世界中で大きな問題として取り沙汰されていることとの密接な関係について言及していく。
「いま私たちは新たな危機に直面しています。それは地球温暖化です。何年も前から警告されてきて、いままさにこちらに向かって襲ってきています。もはや船の方向を変えることはできません。その氷山にぶつかった時、一番苦しむのは誰でしょうか?この問題を引き起こした豊かな国々ではなく貧しい国々の人々です。富を持つ人々が人類の文明の進化のペダルを踏んだせいで、我々は正面から氷山にぶつかろうとしています。苦しむ貧しい人々を差し置いて、金持ちはきっと逃げ果せることでしょう。そういった意味で、この映画のテーマはいまでも、いや現在の方がよりタイムリーなのかもしれません」。
「レオナルド・ディカプリオはすごく可能性を秘めた人」
「撮影中のことは、どれもすごくはっきり覚えています。映画そのものよりも、撮影中のことの方が鮮明に覚えていると言ってもいいほどです」と振り返るキャメロン。実物とほぼ同サイズに作ったタイタニック号のセットをより大きく見せるために背の低いエキストラを雇ったことや、撮影の最終日に自らウエットスーツを着てスタントマンと一緒に水中で大量の水を浴びたことなど、25年以上前の記憶をたどっていく。
ジャックを演じたディカプリオは、本作を契機に押しも押されもせぬ大スターへと上り詰め、『レヴェナント:蘇えりし者』(15)で悲願のアカデミー賞主演男優賞に輝いた。「レオがここまですばらしいキャリアを築くことは、私にははっきり見えていた…と言いたいところですが、そんなことはありません(笑)。あの頃わかっていたのは、彼は非常に才能豊かでパワフルな俳優だということだけでした。すごく可能性を秘めた人だと。可能性があるからといって、必ずしもそれを発揮できるとは限りません。でも彼はそれをやって見せました。私たちの映画は、レオとケイト(・ウィンスレット)、彼らのキャリアを次の段階に持っていっただけなのです」。
そしてもうひとつキャメロン監督が振り返ったのは、年老いたローズを演じたグロリア・スチュアートとの撮影時のエピソード。それは、公開当時から話題になっていたラストシーンのローズの生死に関する考察の答えをくれるものであり、キャメロン監督は「私には作り手として、一つの明確な答えがあります」と語る。
「グロリアはとてもすばらしい人でした。彼女は撮影の時、私に『ここで私は生きているのですか?死んでいるのですか?』と訊ねてきました。私は『それぞれの観客に解釈してもらいたい』と曖昧な答えをしていましたが、彼女はピシャリと『そういうのはいいから、私は息を止めるのがいいのか止めないのがいいのかと聞いているんです』。そこで私はしばらく考えて、こう言いました。『息を止めてください』。それが私の答えです」。