笑えて泣けるマルチバース『エブエブ』監督コンビ、ダニエルズにインタビュー!「タイトルが映画作りのゴールになりました」 - 4ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
笑えて泣けるマルチバース『エブエブ』監督コンビ、ダニエルズにインタビュー!「タイトルが映画作りのゴールになりました」

インタビュー

笑えて泣けるマルチバース『エブエブ』監督コンビ、ダニエルズにインタビュー!「タイトルが映画作りのゴールになりました」

「テレビシリーズでも映画でも、自分たちが誇れる作品を書けばいい」

ダニエルズは、主人公を最悪のユニバースに閉じ込める舞台としてIRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)を選んだ
ダニエルズは、主人公を最悪のユニバースに閉じ込める舞台としてIRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)を選んだ[c]2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

――視点という意味では、IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)を舞台にしているところもおもしろかったです。毎年4月にアメリカの全有給勤労者が確定申告を行うのに、IRSの存在は過小評価されていると思っていたので。

クワン「IRSを舞台にした映画がなかったかと考えているけど…デヴィッド・フォスター・ウォレスがIRSを舞台にした小説『The Pale King』を書いています」

シャイナート「黒澤明の『生きる』が、役所を舞台にしていたけど」

クワン「『マルサの女』もあるじゃないか!(笑)ともかく、なぜIRSかというと、とてもシンプルです。主人公にとって最悪のユニバースに閉じ込められるというアイデアから、監査地獄を思いつきました。アメリカの税務監査が地獄のようにひどいのか、いろいろと調査しました。僕の祖父母はランドリービジネスと現金主義によるビジネスを同時に営んでいて、移民ということもあってよく監査のターゲットになっていました。だから、僕の家族がそうだったんです。そして、みなさんが憎き税務監査に共感するかは別として、映画を始めるのにとても楽しい場所だと思い、さらには主人公が税務監査官と共感し合うという感情の挑戦に挑むことができれば、世界中のどんな人とでも分かり合うことができるではと考えたのです。あとは、クリスマス映画のように毎年確定申告の時期になると僕らの映画を観てくれたらいいな、という下心と(笑)」

奇想天外なストーリーで世界中の映画ファンに注目されている『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
奇想天外なストーリーで世界中の映画ファンに注目されている『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』[c]2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.


――ダニエルズはA24とテレビシリーズの、ユニバーサルと映画のファーストルック契約(優先交渉権契約)を結んでいますが、今後どのように作品を作られていくのでしょうか。

シャイナート「僕らもまだ理解しようとしているところだけど、テレビ用の企画があれば、まずA24に持ち込むということです」

クワン「それで『ノー』と言われたら他のスタジオに持ち込むことができます。でもユニバーサルとは独占契約だから、もしも彼らが『ノー』と言ったら、契約期間が終わるまでその映画企画は動かせません。だからちょっとシリアスな関係と言えます。A24とはオープンリレーションシップ(特別にステディな関係ではない)で、ユニバーサルとは婚姻関係と考えれば良いでしょう」

シャイナート「ユニバーサルからのオファーは、『君たちの次の映画を作りましょう』というもので、とてもありがたいことです。いまは、いろいろな意味でプレッシャーがなくなり、自分たちが誇れるものを書けばいい状況になりました。そして、ユニバーサルはとても協力的です。一つ心配なのは、僕達はとても遅筆なので、そこにプレッシャーがかかっています」

クワン「僕らはいつも遅筆だって言い訳をするけど、それはアイデアが複雑すぎることに対し、僕らが優秀じゃないからです。脚本家の友達の中には、書くために生まれてきたような人たちもいて、僕らはそういうふうにできてはいない。そして、いつもアイデアを複雑にしすぎるんです。だから次の映画は、今作みたいにスマッシュヒットになるかもしれないし、完全なる失敗作になるかもしれない。そして、そういう存在でありたいです。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は大失敗作になる可能性もありました。でも、だからこそ長い間このプロジェクトを追求し興味を失わずにいられました。いまは次回作のアイデアに溺れている状況で、良い面としては正しい道を歩いているような気がするし、悪い面としては、この先にはたくさんの仕事が待っているということです」

「自分たちが誇れる作品を書きたい」というダニエルズ
「自分たちが誇れる作品を書きたい」というダニエルズ

――あなた方が違うユニバースで、監督や脚本家でもなく、映画業界にも属していないとしたら、何をしていると想像しますか?

シャイナート「僕にもし悪い友達が何人かいたら、Redditのネット荒らしのような、非常に攻撃的な人格になっていたかもしれません。2021年1月6日のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件で逮捕された人たちみたいなね(笑)。でも最も信憑性があるのは、数学教師です。子供の頃、数学が好きだったのと、子どもたちと一緒に働くのが好きだから。今でも時々、映画監督はやめて教師になるべきじゃないかと思うんです」

クワン「僕は多分、牧師ですね」

シャイナート「若い人のための牧師だね」

クワン「とても信仰深い家庭で育ったので。でも今は信仰深くないから、自分の教会を作ってカルトのリーダーにならないといけないでしょうね。だからカルトリーダーでしょうか(笑)」

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は公開中
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は公開中[c]2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

取材・文/平井 伊都子

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