コラム 2023/3/19 12:30

“愛と慟哭”のヒュー・ジャックマン…ウルヴァリンだけじゃない、演技派としての歩み

息子との関係に葛藤する父親をジャックマンが渾身の演技で熱演

このように演技力でも高く評価されているジャックマンが、製作総指揮も兼務するほど出演を熱望した作品が『The Son／息子』だ。ゼレール監督の戯曲を原作とするヒューマンドラマで、苦悩する父ピーターを渾身の演技で熱演。少しの掛け違いからすれ違ってしまう親と子の心の距離を浮き彫りにした。

新生活が始まり、ニコラスの心の状態も上向きに見えていた(『The Son／息子』)[c] THE SON FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2022 ALL RIGHTS RESERVED.

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ピーターは再婚した妻のベス(ヴァネッサ・カービー)と生まれたばかりの赤ん坊と暮らす優秀な弁護士。完璧な生活を送っていたが、前妻のケイト(ローラ・ダーン)と同居する17歳の息子ニコラス(ゼン・マクグラス)が不登校になり、「父さんと一緒に住みたい」と懇願する彼を自宅へと迎え入れる。しかし、わかり合えない父と子は激しく言い争い…。

小さかった頃のニコラスとの思い出が何度もフラッシュバックする(『The Son／息子』)[c] THE SON FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2022 ALL RIGHTS RESERVED.

献身的な愛と高圧的な理不尽さ…表裏一体の心情を繊細に表現

本作が鋭い痛みを投げかけてくるのは、ピーター自身もまた家庭を顧みない高圧的な父親アンソニー(アンソニー・ホプキンス)との関係にトラウマを抱えている“息子”であるということだろう。ピーターを真ん中に、アンソニーから孫のニコラスへと引き継がれていく負の連鎖がやるせない。

久しぶりの再会を喜び合う父と息子だが…(『The Son／息子』)[c] THE SON FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2022 ALL RIGHTS RESERVED.

人生をどう生きるのかに悩み、精神的に不安定になっているニコラスを相手にどうすることもできず、ただ言葉ばかりが空回りしていくピーター。ジャックマンは、仕事のチャンスを逃しても息子の気持ちに寄り添おうと努める献身的な父親の愛と、もう一方で息子の気持ちが理解できずに成長することばかりを求めてしまう父親の理不尽さという表裏一体の心情を、緩急の効いた演技で繊細に表現する。観る者の心を激しく揺さぶる、体の奥底から絞りだす慟哭シーンは必見だ。