『フェイブルマンズ』と合わせてチェックしたい!スピルバーグが影響を受けたクラシックムービー
『サイコ』『めまい』などヒッチコック的サスペンス演出
スピルバーグ作品といえば、観客をハラハラさせるようなサスペンステクニックも盛り込まれているが、その影響元と言えるのがアルフレッド・ヒッチコック監督だろう。若き日のスピルバーグが『引き裂かれたカーテン』(66)の撮影現場を見るために、ユニバーサルスタジオに忍び込んだというエピソードもあるほどだ。
各所でフェイバリットとしてヒッチコックの作品を挙げており、自身の作品でも技法を真似ている。寂れた宿で一晩を過ごすことになる女性の恐怖を描いた『サイコ(1960)』(60)での有名な目へのアップは『マイノリティ・リポート』(02)で引用している。
さらに『めまい』(58)での背景が伸び縮みするような“めまいショット(ドリーズーム)”も、『ジョーズ』(75)や『E.T.』(82)で取り入れている。
そんな敬愛するヒッチコックの遺作『ファミリー・プロット』(76)の現場を訪れたスピルバーグだが、その姿を見つけたヒッチコックによって現場から追い出されたという逸話も。アンクレジットながら製作総指揮を務めた『ディスタービア』(07)では、『裏窓』(54)の盗作として権利所有者から訴えられる(判決は認められなかった)など、なにかとヒッチコックとは相性が悪いようだ。
キューブリック、キャプラ、黒澤…スピルバーグが愛する巨匠たち
そのほかにも多くの巨匠の影響を受けてきたスピルバーグ。例えばスタンリー・キューブリック監督については、『未知との遭遇』(77)を作り上げるにあたり『2001年宇宙の旅』(68)を参考にしたり、彼のアイデアを原案に『A.I.』(01)を作り上げたりとその関係性の深さは有名。いまもキューブリックが企画していたナポレオンの伝記映画企画を、ドラマシリーズとして製作している最中だ。
フランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』(46)もことあるごとに見返す作品の1本で、キャプラのヒューマニズム的な道徳観は『フェイブルマンズ』をはじめスピルバーグの多くの作品から感じることができる。
日本人として触れておきたいのが黒澤明監督の存在。『七人の侍』(54)はスピルバーグがよく見直す映画として名を挙げている。特にクライマックスのどしゃぶりの決闘シーンのようなダイナミックかつ激しい自然現象の演出は、『フェイブルマンズ』のハリケーン襲来シーンなどからも影響を感じ取ることができる。
また忘れてはいけないのが、黒澤自身が見た夢を基にした8編からなるオムニバス映画『夢』(90)。この作品は、前作『乱』(85)の興行的失敗もあり、国内での資金集めが難航していたところ、来日したスピルバーグが製作協力を申し出たことで実現した企画なのだ。
多くの名作からインスピレーションを授かり、自身も名作を生み出してきたスピルバーグ監督。今回挙げたのはごく一部だが、『フェイブルマンズ』と合わせてチェックすれば、より作品を楽しめることだろう。
文/サンクレイオ翼