「Ruby」開発者・まつもとゆきひろが語る、「Winny」事件の理不尽な逮捕劇「プログラミングを奪われることほど残酷なことはない」

インタビュー

「Ruby」開発者・まつもとゆきひろが語る、「Winny」事件の理不尽な逮捕劇「プログラミングを奪われることほど残酷なことはない」

2002年、「Winny」と呼ばれるファイルを簡単に共有できるソフトが開発され、試用版が「2ちゃんねる」に公開される。本人同士が直接できる革新的なシステムは瞬く間にシェアを伸ばして注目を集めるが、映画やゲーム、音楽などが違法にアップロードされる事態が続出し、深刻な社会問題へ発展。著作権侵害による逮捕者もが現れるなか、開発者である金子勇も著作権法違反幇助の容疑で逮捕されてしまう。

この事件を映画化したのが『Winny』(公開中)。『ぜんぶ、ボクのせい』(22)で商業映画デビューした松本優作監督のもと、主人公の金子を東出昌大、サイバー犯罪に詳しい弁護士、壇俊光を三浦貴大が演じ、警察や検察の圧力、苛烈なマスコミ報道にもさらされながら裁判に臨む姿が描かれていく。

あるツールが犯罪に使用されるとその開発者にも罪があるのか?そして、金子の逮捕は日本の技術発展を妨げてしまったのではないのか?そんな痛烈なメッセージを問いかける本作をより深く理解するため、オブジェクト指向スクリプト言語「Ruby」の開発者として知られる日本を代表するプログラマー、まつもとゆきひろへのインタビューを実施。事件当時は報道などでその行方を見守っていたというまつもとに、金子が逮捕されてしまったことの理不尽さや同じプログラマーとしての危機感、組織の怖さについても語ってもらった。

「プログラマーは人間を相手にしている割合が多い仕事」

――映画『Winny』への理解を深めるにあたり、まずはまつもとさんをはじめプログラマーの方々がどういったお仕事をされているかをお聞きしたいです。

ファイルを簡単に共有できるソフトウェア、Winnyを開発して逮捕されてしまった金子
ファイルを簡単に共有できるソフトウェア、Winnyを開発して逮捕されてしまった金子[c]2023 映画「Winny」製作委員会

「現在はスマートフォンなどの普及もあり、日常的にコンピュータが使用されていますが、実際には機械だけでは動くことはできません。そこで、例えばiOSやAndroidといったOSや、アプリやゲームといったソフトウェアで、人間が動き方を機械に教えることが必要になります。

そのうえで定義は広いのですが、ソフトウェアを作りだすためにありとあらゆる工程を担う人を、私はプログラマーと呼んでいます。そして、『Winny』の開発において金子さんは、誰かの指示で動いていたわけではなく、設計から運用にいたるすべてを一人で行っていました」

――現代社会ではなくてはならない存在ですね。

「そうですね。ただ、プログラマーとしての仕事以前に、そもそも『ソフトウェアを作る』ということをきちんと理解いただいていないなという認識もあります。おそらく皆さんは、プログラマーは一日中コンピュータに向き合って、なにかを入力し続けているようなイメージを持たれていると思うのですが、プログラマーの仕事で一番大事なことは、それぞれのプログラムでなにをするのか、どんな問題を解決したいのかを決めることです。

金子の弁護を担当することになるサイバー犯罪に詳しい弁護士、壇俊光
金子の弁護を担当することになるサイバー犯罪に詳しい弁護士、壇俊光[c]2023 映画「Winny」製作委員会

『Winny』のなかでも描かれていましたが、生じる問題をどのように解決するかを日々考え続けないといけないので、問題を抱えている利用者との対話や理解も大事なんです。実は人間を相手にしている割合が多い仕事と言えます」

「ソフトウェア開発の自由が奪われてしまうのは忌み嫌うべきこと」

――「Winny」や金子勇さんを題材にした映画があると聞いて、どのような印象を受けましたか。

「事件からずいぶん時間が過ぎてしまったいま、この事件を取り上げることにどのような意味があるのだろう?と思いました。ただ、一連の出来事を丁寧に描いてくれるのなら、プログラマーについての(上記のような)誤解が減ることに役立つかもしれないという期待感はありました」

――実際に作品をご覧になられていかがでしたか。

「逮捕された金子さんが、保釈後もパソコンに触れることを禁じられてしまうところは、同じプログラマーとしてもつらいシーンでした。プログラマーからプログラミングを奪うことほど残酷なことはないと思います」

【写真を見る】天才プログラマー、金子勇を全身全霊をかけて表現した東出昌大の演技に注目!
【写真を見る】天才プログラマー、金子勇を全身全霊をかけて表現した東出昌大の演技に注目![c]2023 映画「Winny」製作委員会


――劇中で金子さんが「パソコンが使えればまだまだ改善できるんだ」と言っている姿は印象的でした。

「私自身、オープンソースソフトウェア(開発者がソースコードを無償公開し、自由に利用や改変することが許可されているソフトウェア)といった自由を重要視する活動をしてきたこともあり、組織的な圧力によってソフトウェア開発の自由が奪われてしまうのは忌み嫌うべきことだと考えています。しかも、そのようなことが現実に起きてしまったことに、事件当時も作品を観ている間もとても憤りを感じました。

劇中でも、壇弁護士が包丁を例えに出して、『殺人に使われた時に作った職人も逮捕されますか?』と言っていたのはまさにその通りで、著作権違反幇助で金子さんが逮捕されてしまったのは本当に理不尽なことだと思います」

■まつもとゆきひろ
株式会社ネットワーク応用通信研究所フェロー、Rubyアソシエーション理事長など、肩書多数。プログラミング言語デザインの第一人者であり、英語圏では「Matz」の愛称で知られている。自身が開発したプログラミング言語「Ruby」は、国際電気標準会議(IEC)で国際規格として認証されるなど、世界中のユーザーに支持されている。

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