押井守が40年の時を経て明かした「ダロス」の謎。「自分の運命を狂わせたのもOVAで、立ち直ったのもOVA」
鳥海永行&押井守の師弟コンビによる一大SF叙事詩「ダロス」。このほどバンダイナムコフィルムワークスが映像レーベル「EMOTION」の40周年記念企画「EMOTION 40th Anniversary Program」の一環として、押井監督監修によって本作の新規HDマスター版を制作。40年の時を経て作品初のBlu-rayが3月24日(金)に発売となる。アニメーション史に残る世界初のOVA(オリジナルビデオアニメーション)であり、押井監督が「久しぶりに観てみると『よくやっているんじゃないか』と思った」と自信をのぞかせる本作は、いま改めて観直したい1作だ。2月9日に新宿ピカデリーで行われた40周年記念上映&トークショーでの押井監督の発言を振り返りながら、その魅力をご紹介したい。
押井監督が振り返る、師匠との共同監督の難しさとは?
本作の舞台は21世紀末。月面開拓計画の実施によって人口増加、資源枯渇などの諸問題を解決した地球だが、その裏には月面開拓民ルナリアンたちの犠牲があった。地球の管理政権により、開拓民たちの自由が剥奪されて半世紀。若きルナリアンたちが真の自由を求めて立ちあがる姿を描く。
制作期間は1983年から1984年のこと。押井監督は「昼前にはスタジオに入って『うる星やつら』のテレビシリーズ、夕方から夜まで『ダロス』、別のスタジオに行って深夜から朝まで『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』をやっていた」と人生で一番忙しい時期に本作に取り掛かっていたという。全4話で構成された本作は、押井監督が師匠と仰ぐ鳥海監督との共同監督体制で進行した。
共同監督の役割分担について、押井監督は「半分ずつ話数を担当することになって、自分の持ち話数に関しては脚本も絵コンテも演出も全部担当した」と話数ごとに分担したことを告白。「基本的には(鳥海監督から)『戦闘シーンが多い話数は、お前がやれ』と。僕も当時はアクションバリバリだったので、『戦闘シーンは任せてください。ドラマのところは鳥さん、お願いしますね』ということになった」というが、「お互いの担当話数がどうなっているかをまったく知らずにコンテを切ったから、初めて相手の作品を観た時に『そういう話だったのか』と驚いた」と苦笑い。「私がロボットでドンパチをやって、師匠が家族の話を延々とやっていた」と共同監督の難しさを語っていたが、そのように話数ごとに監督のカラーの違いが見られる点も実に興味深い。
押井監督が答えた“ダロス”の謎。そしてOVAとの深い関わり
タイトルにもなっている、劇中に登場する巨大な構造物“ダロス”という存在が謎に満ちているが、トークショーでは押井監督がその謎について答える場面もあった。“ダロス”について押井監督は「一応、裏設定はある」と口火を切り、「“ダロス”は地球からは絶対に見えない月の裏側にあって、外宇宙に顔が向いている。オズマ計画のように『ここに人類がいるぞ』と外宇宙に向けてメッセージを送るために、第1世代の開拓者たちが作ったもの」と説明。“ダロス”という名前については、「ダイタロスなんです。そういう意味合いも入っている」とギリシア神話とも絡めているという。ぜひその裏設定を噛み締めながら、物語を追いかけてみたい。
本作はアニメーション史に残る世界初のOVAとしても、見逃せない1作だ。OVAとは、テレビ放映や劇場公開ではなく、VHSなどの形態で発売されたアニメ作品のこと。テレビアニメや劇場アニメでは成立しないようなチャレンジングな企画も立ち上げられるなど、アニメの視聴者層を広げただけではなく、海外に向けて日本のアニメが流通するきっかけの一つにもなった。
押井監督は「『ビューティフル・ドリーマー』であれだけのことをやってもお客さんが減らなかったから、なにをやってもいいんだと思い込んで『天使のたまご』を作ったら全然売れなくて(笑)」と1985年にOVA「天使のたまご」を作りあげたものの、その評判があまりよくなかったことを述懐。「3年後にまた懲りずに、(OVAの)『(トワイライトQ) 迷宮物件』をやった。今度はもうダメかと思ったけれど、その時に私の監督生命がつながったのが『(機動警察)パトレイバー』。『パトレイバー』もOVAとして出発した。自分の運命を狂わせたのもOVAだったし、立ち直ったのもOVAなんです」とOVAとの関わり合いを楽しそうに話していた。
発売日:3月24日(金)発売
価格:6380円(税込)
発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス
※商品、特典の詳細は公式サイトにてご確認ください。
■EMOTION 40周年記念特別番組もYouTubeで配信中