「みんな僕がフランス人だってことを忘れている」40年ぶりに母国で挑んだ『愛人/ラマン』の巨匠ジャン=ジャック・アノーを直撃!

インタビュー

「みんな僕がフランス人だってことを忘れている」40年ぶりに母国で挑んだ『愛人/ラマン』の巨匠ジャン=ジャック・アノーを直撃!

2019年4月15日、パリのノートルダム大聖堂が炎上するシーンをテレビで見て、まるで地球の底が抜け落ちるような衝撃を受けた人は多いと思う。めらめらと燃え上がる大聖堂をただなす術もなく眺めるしかなかった、あのもどかしさは、9.11の悪夢とどこか通底するものがあった。そんなカタストロフを独自の視線で見つめる人物がいた。『薔薇の名前』(86)や『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(97)で知られるフランス映画界の巨匠、ジャン=ジャック・アノーだ。彼がこのニュースを見てなにを感じ、なぜ、未曾有の大火災を克明に再現する15年ぶりの監督作『ノートルダム 炎の大聖堂』(4月7日公開)に着手することになったのか。東京とパリをつないだオンラインの単独取材で製作の動機や撮影の内幕について訊いた。

「誰も映画化しようとしなかったので自分で脚本を書き始めた」

あの日、アノー監督は自宅があるパリではなく、フランス西部のヴァンデにいたという。「たまたまいた海辺の小さな家にあるテレビがうまく映らなくて、ラジオで火災の状況を追っていました。でも、それが返ってよかった。もともとノートルダムのことはよく知っていたから、ラジオのリポートを聞くだけで僕にはビジュアルが見えたんですよ。話が進むに連れて、これはハリウッドの優れたサスペンス映画みたいだと思いました。ノートルダム大聖堂という美しいスターがいて、火災という悪魔のようなヴィランがいて、そこにエモーションが追随してきて、ポジティブなエンディングがあって。だから、側にいた妻に言ったんですよ、『多分、いろんな人たちがこれを映画にしようと思うだろう』って。だから1年間くらい放置していたんです。でも、誰も作ろうとしなかったので自分で脚本を書き始めました」。


燃え上るノートルダム大聖堂に挑む消防士たちの姿を捉えた
燃え上るノートルダム大聖堂に挑む消防士たちの姿を捉えた[c] 2022 PATHÉ FILMS – TF1 FILMS PRODUCTION – WILDSIDE – REPÉRAGE – VENDÔME PRODUCTION

本作の見せ場の一つは、演出された映像と当時一般の人々が携帯で撮影した実際の映像とがスプリットスクリーンによって左右同時に映しだされるシーンだ。携帯の映像はSNSを通じて募集したものだ。
「SNSで呼びかけたのは僕のアイデアです。世界中の人が見ていたし、テレビには映らないシーンもありましたからね。そこでSNSを使って映像の提供を募ったら、あっという間に3万5,000もの動画が送られてきました。映像の選定のために特別にスタッフを配置したほどです。そのなかには何時間も撮影し続けたノートルダムの近隣住民の方が送ってくれたものもありました。驚いたのは、彼らの映像と、すでに僕たちが撮り終えていた映像と完全にマッチしていたことです。自分たちが火災現場を完璧に再現できていたことに。それは大聖堂と似た撮影場所に恵まれたことも大きかったと思います」。

大規模なセットを炎上させての撮影とVFXの融合で、驚愕の迫真性と映像美を実現した
大規模なセットを炎上させての撮影とVFXの融合で、驚愕の迫真性と映像美を実現した[c] 2022 PATHÉ FILMS – TF1 FILMS PRODUCTION – WILDSIDE – REPÉRAGE – VENDÔME PRODUCTION
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