ブレンダン・フレイザーが語る、『ザ・ホエール』の旅で手にした「オスカー以上に価値あるもの」
ブレンダン・フレイザーが、本年3月に発表された第95回アカデミー賞で主演男優賞を受賞した映画『ザ・ホエール』が公開となり、余命わずかな体重272kgの男の葛藤、その先にある希望までを体現したフレイザーの熱演が、話題になっている。そこで、『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』(08)以来15年ぶりに来日を果たしたフレイザーにインタビューを敢行。本作をめぐる旅を振り返った彼が、「オスカー以上に価値あるものを得た」といま実感している俳優業の喜びまでを明かした。
「チャーリー役を受け取った時は、緊張や恐れもあった」
『レスラー』(08)や『ブラック・スワン』(10)などのダーレン・アロノフスキー監督の最新作となる本作は、体重272kgの孤独な中年男性、チャーリーの最期の5日間を、ワン・シチュエーションの室内劇という様式で映しだすヒューマン・ドラマ。恋人を亡くしたショックで過食を繰り返してきた主人公が余命いくばくもないことを悟り、長らく音信不通だった17歳の娘エリー(セイディー・シンク)と関係を修復しようと決意する姿を描く。フレイザーは、チャーリーの巨体を表現するために毎日メーキャップに4時間を費やし、5人がかりで着脱する45kgのボディスーツを着用して撮影に臨んだ。その変身ぶりも圧巻だが、なによりも目を奪われるのはチャーリーの絶望や罪悪感、もろさだけでなく、その先にある愛や救いまでを激しくあふれさせたフレイザーの驚異的な演技だ。
原作は、2012年に初上演されたサミュエル・D・ハンターの同名戯曲。ハンターは、今回の映画化に際しても脚本を担っているが、彼が同作を書いたきっかけは、大学時代に肥満体形だった自身の経験に基づいているという。作家が自らの魂を注ぎ込んだキャラクターを演じることになったフレイザーは、役を受け取った当初は「緊張や恐れもあった」と告白する。
「ただ僕は、自信を持ちすぎた状態で役に臨むというのは、役者の仕事として正しい姿勢ではないと思っていて。サム(ハンター)の人生における経験が脚本に肉付けられている作品ですから、チャーリーを演じるうえでは、きっとエモーショナルな意味での重みを背負うことになるだろうということは理解していました」とプレッシャーを口にしながら、「本作では撮影前に、3週間もがっつりとリハーサルをすることができました。その期間があったおかげで、自信を持つことができた」とスタッフや共演者と時間をかけてお互いを知り、作品への理解を深めたことで不安を乗り越えることができたという。
役者としての姿勢を口にしたフレイザーだが、「チャーリーに役者自身の内面がにじみでたことはあるか?」との質問には、「すべて。自分自身のすべてがにじみでている」とコメント。「それはチャーリーという役が、自分のもろさや正直な部分を求めるような役だからだと思います。これまで舞台ではいろいろな役者がチャーリーを演じてきたけれど、アグレッシブで怒りの部分を強調したチャーリーが多かったようです。舞台の場合は、そのほうが上手くいくのかもしれない。しかし映画の場合はディテールのすべてまで映像に捉えることができるので、アグレッシブさよりも、ひたすら誠実に演じることが大事だと考えました。僕の演技を見たサムは、『理想のチャーリーだった』と言ってくれたんです。そうやってサムは、いつも褒めてくれるんですよ」とうれしそうに目尻を下げる。