親の顔より見たモアイ?「EMOTION」40周年の歴史を、代表作や隠れた名作から振り返る
漫画や小説を原作としたOVAは名作ぞろい!
OVAの黎明期である1980年代に特に多く作られていたのは、人気漫画などの原作を初めてアニメーション化した作品。代表的なところでは士郎正宗のデビュー作の一編を原作に、暴走した戦闘用アンドロイドに狙われた少女を守る女性ジャーナリストを描いた「ブラックマジック M-66」。士郎自ら監督・脚本・絵コンテを担当した本作は“OVA初期の傑作”と称されている。
士郎正宗作品の人気はとりわけ高く、「ブラックマジック M-66」以後も「アップルシード」や「特捜戦車隊ドミニオン」などのOVAが制作され、近年では「攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY -ANOTHER DIMENSION-」や「攻殻機動隊ARISE」と、代表作である「攻殻機動隊」の新シリーズOVAが劇場上映展開してきた。
また人気漫画を原作とした作品として、永井豪原作・石川賢作画による「真ゲッターロボ」を原作に、「EMOTION」15周年記念として制作された「ゲッターロボ」シリーズ初のOVA「真(チェンジ!!) ゲッターロボ 世界最後の日」もある。「ゲッターロボ」シリーズは2000年に「真ゲッターロボ対ネオゲッターロボ」、2004年には「新ゲッターロボ」も発売された。
小説原作のアニメ作品からも名作が生まれている。神林長平のSF小説を原作にした「戦闘妖精雪風」は、2002年から全5話が3年がかりで制作された大作。人類と未知の異星体ジャムの戦いを描いた同作で、主人公の深井零の声を担当しているのは、後に「半沢直樹」などでブレイクする堺雅人。「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の白鳥麗次役など声優としても活躍する堺だが、OVA作品に参加しているのはこの作品のみ。ファンなら押さえておきたい貴重な一本といえよう。
また、そんな「戦闘妖精雪風」の“原点”ともいわれているのが小澤さとるの漫画を原作とした「青の6号」だ。1998年から全4話で展開した同作のOVAの監督を務めたのは前田真宏。メカニックデザインには山下いくとも参加しており、「エヴァンゲリオン」シリーズや『シン・ウルトラマン』(22)や『シン・仮面ライダー』(公開中)で彼らに興味を持った人には是非チェックしてもらいたい。
伝説のOVA「トップをねらえ!」も35周年のアニバーサリー!
そしてOVAの醍醐味といえば、やはり“オリジナルビデオアニメーション”というだけあって、原作のないオリジナル作品。庵野秀明が商業作品初監督を務め、樋口真嗣が絵コンテを担当したGAINAX初のOVA作品「トップをねらえ!」もその一つだ。
西暦2015年。白鳥座宙域で航行中だった「るくしおん」艦隊が謎の宇宙怪獣の襲来によって全滅。それから15年後に設立された宇宙パイロット養成学校「沖縄女子宇宙高等学校」を舞台に、「るくしおん」艦長の娘タカヤ・ノリコがパイロットのトップになるべく厳しい特訓を積んでいく熱い物語だ。
2004年にはGAINAXの20周年を記念して続編「トップをねらえ2!」が原案・監督に鶴巻和哉、キャラクターデザインを貞本義行が手掛け制作される。そして「EMOTION」の40周年である今年2023年は、「トップをねらえ!」の発売から35周年でもあるダブルアニバーサリーイヤー。シリーズの35周年を記念して、「トップをねらえ!」が5月26日(金)から、「トップをねらえ2!」が6月9日(金)から劇場上映されることも決定している。観たことがない人は、この機会に映画館の大きなスクリーンで目撃してほしい!
そして、ロボット技術を応用した“レイバー”が活躍する近未来を舞台に、警視庁特車二課の活躍を描いた「機動警察パトレイバー」シリーズも、同じく35周年を迎える。ゆうきまさみ、出渕裕、高田明美、伊藤和典、押井守の5名で編成されたクリエイターグループ「ヘッドギア」によって生み出された本シリーズは、ゆうきによる漫画連載と、OVA発売が1988年にスタート、その後、劇場版、テレビシリーズ、ゲームと様々なメディアに展開していった。最初に発売されたOVA(全7巻)では、低価格でオリジナル作品を実現するために、OVAとして初めて作品内にCMを挟むという手法も取り入れられた。
今年の8月10日(パトの日)には、このアニバーサリーイヤーを記念して、監督・押井守による劇場版2作品が特別パッケージとして復刻する。劇場公開版(ドルビーサラウンド)とサウンドリニューアル版(ドルビーデジタル5.1ch)を同時収録したマルチオーディオ仕様となっており、特製ビジュアルスリーブは、プロジェクト発足時からアートディレクションを担当する田島照久によるもの。2024年8月9日までの期間限定生産となっているので、ぜひこの機会に入手して欲しい。
次に紹介するのは、「機動警察パトレイバー」を生みだす前の伊藤和典と押井守が手掛けた「トワイライトQ」。第1話の「時の結び目 REFLECTION」(監督:望月智充/原案・脚本:伊藤和典)では、バカンスで訪れた島でカメラを拾った女子高生のタイムトラベルが描かれ、第2話「迷宮物件 FILE538」(原案・脚本・監督:押井守)では奇妙な調査を依頼される私立探偵を描いた不条理劇としてカルト的人気を誇っている。どちらもいま観ても古さを感じさせない、斬新なアニメ表現が見どころだ。
ほかにも「おジャ魔女どれみ」シリーズなどで知られる佐藤順一が手掛け、後にテレビアニメやコミックなどでも展開されたハートフルコメディ「魔法使いTai!」。「逮捕しちゃうぞ」の藤島康介が企画・原案・キャラクター原案を務め、映画版も制作されるなど拡大展開していった「エクスドライバー」。海に沈んだ国家機密を回収する“サルベイジャー”の活躍をスピード感あるアクションとお色気描写たっぷりに描いてスマッシュヒットとなった「AIKa」など多ジャンルにおよぶ。
また、テレビCMでも注目を浴び、宇多田ヒカルが歌うテーマソングも大ヒットした「FREEDOM」や、2011年に劇場公開とBlu-ray&DVD発売、ネット配信と多方面で展開していった「トワノクオン」など、多くの傑作たちが現代のアニメカルチャーに影響を与えている。