庵野秀明監督が解説!『シン・仮面ライダー』制作秘話「精神的にしんどい時は、仮面ライダーを観ます」
『シン・ゴジラ』(16)で総監督を務め、『シン・ウルトラマン』(21)で企画&脚本を担当した庵野秀明がメガホンをとった『シン・仮面ライダー』(公開中)の庵野監督特別解説付き上映会が、4月29日に新宿バルト9で開催。本作の脚本も手掛けた庵野監督と、本作ではイチロー(森山未來)の母役を演じた市川実日子が聞き手役として登壇した。
『シン・仮面ライダー』では、初代「仮面ライダー」をベースにしたオリジナルストーリーが展開。世界征服を企む組織「SHOCKER」によってバッタオーグに改造された本郷猛(池松壮亮)は、緑川弘博士(塚本晋也)とその娘、緑川ルリ子(浜辺美波)とともに組織を裏切り、「仮面ライダー」としてSHOCKERと戦うことを決意。のちに仮面ライダー第2号の一文字隼人(柄本佑)とも共闘することになる。
『シン・仮面ライダー』の興行収入は20億円を突破し、歴代の「仮面ライダー」映画史上最高記録をマーク。本イベントは、市川がファンからの質問を監督に投げる形で進行していった。
「『仮面ライダー』は本放送以降、定期的に観ています」(庵野)
市川「(ルリ子が劇中で話す)『ところがぎっちょん』ってなんですか?」
庵野「昭和の時代のギャグなんですが、設定としてルリ子はお父さんとイチローとしか会話していないので、お父さんが言っているのを真似しているんです。あと、浜辺さんがこの台詞を言ったら可愛いかなと」
市川「様々なポスターがあるなかで、仮面ライダーのマスクがアップになっているポスターが好きです。あれはどの仮面ライダーなのですか?」
庵野「大量発生型相変異バッタオーグです。マスクのアップにしようと思ったのは石ノ森先生の描かれている『仮面のアップ』の絵が印象的だったので、それを引き継ごうと。あれはCGで作っているのですが、最初にイメージを送る際に大量発生型相変異バッタオーグのマスクしかスタジオになかったので、それを写真に撮って送ったら、CGスタッフがそのデータで作っていたんです」
市川「でもそれは庵野さん的におもしろいと思ったということですか?」
庵野「おもしろいと思ったのと、逆光にすればいいかと(笑)。でも、目ののぞき穴の部分だけ本郷(池松壮亮)のCGデータがあったのでそれを入れ込みました」
市川「『シン・仮面ライダー』を撮ると決まった時に、1971年版の『仮面ライダー』はご覧になりましたか?」
庵野「『シン・仮面ライダー』が決まる前からずっと観ているのでわざわざは観ていないです。本放送も観ていましたが、再放送の度に観ていました。再放送が島根の親戚の家で観られるとなったら、わざわざ島根まで行って観ていました。その時観たのがハエ男の回でした(笑)」
市川「大人になってからはどうしていたのですか?」
庵野「レーザーディスクを購入してからは、繰り返し観ていました。24、5歳くらいのときから定期的に観ています。しんどい時や疲れた時に仮面ライダーのアクションをみて元気を出しますね」
市川「共感できる方いらっしゃいますか?」(会場から大きな拍手)
「ライダーの造形的な魅力は“異形”ということ」(庵野)
市川「変身して仮面ライダーになると顔や腕が変化しますが、なぜ首はそのままなのですか?」
庵野「時間がなくて、叶いませんでした。時間あればやりたかったです」
市川「仮面ライダーの精神性に心救われることはありますか?」
庵野「精神的にも肉体的にもしんどい時には、仮面ライダーを観て自分を元気づけます」
市川「作中でスマホが出ていなかったり、クモオーグが乗っている車から、本作は昭和が舞台なのかが気になりましたが」
庵野「政府の男や情報機関の男が一瞬取り出したのでスマホはあるのですが、いろいろなことがSHOCKERに傍受されてしまうので主人公たちは使わないですね。車が古いのは、実相寺(昭雄)監督の愛車をスタッフが大事に乗っているもので、その車が走れるうちに映像に残しておきたいという想いからです」
市川「現代ですよね?」
庵野「だいたい『いまくらい』ということで」
市川「『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』では明朝体のテロップがありましたが今回なかったのはなぜですか?」
庵野「『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』はテロップが入っているほうが、客観性があって良いのですが『シン・仮面ライダー』は内面を描く作品なので、テロップは似合わないので外しました」
市川「今回の「SHOCKER」(「Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling」)は、『SHOCKER』の名称から組織の目的を当てはめたのか、元々の組織の目的を踏まえて『SHOCKER』の綴りを当てはめたんですか?」
庵野「後者です。脚本協力をやってくれている山田胡瓜さんがふさわしい単語をうまく当てはめてくれました」
小出プロデューサー「SHOCKERがどういう組織かという定義を、企画の段階から話し合っていたようです」
市川「仮面ライダーの造形的な魅力はどこですか?」
庵野「造形的な魅力は“異形”ということですね。目が大きいとか。今回はオリジナルのバランスを踏襲し、目の大きさにはこだわりました」
市川「ライダーたちはなぜトレンチコートを着用してるのですか?」
庵野「今回は『防護服を着たままにする』という設定にしてあります。普段はコートで防護服を隠している設定です。ビジュアル的にもアクションの際にコートが動くのが良いと思ったので、コートを着用させました」
このほかイベントでは、庵野監督がセレクトした未公開シーンの映像などもサプライズで上映され、大いに盛り上がりを見せた。
最後に市川は「こんなにすごい温かい拍手をいただけて。出る前は2人だけだし、聞き手役もやったことなかったので、すごい緊張していたのですが、温かい気持ちで私自身も楽しんで一緒に時間を過ごすことができました。ありがとうございました!」と心から感謝した。
庵野監督も「こういうイベントは『式日』以来であんまりやっていないのですが、この作品をすごく好きでいてくださる人のおかげで、このような機会を作ることができました。感謝の気持ちを、今日のような話で少しでも返せればと思っています。また機会があればよろしくお願いします。本日はどうもありがとうございました」とコメントし、イベントは終幕した。
文/山崎伸子