『エンパイア・オブ・ライト』の映画館はこうして作られた！サム・メンデス監督らが明かすロケ地の秘密

「007」シリーズや『1917 命をかけた伝令』(19)のサム・メンデス監督がサーチライト・ピクチャーズとタッグを組んだ『エンパイア・オブ・ライト』のブルーレイ＋DVDセットが5月26日(金)にリリースされる(デジタル配信中)。1980年代初頭のイギリス、静かな海辺の町にある映画館に集う人々の愛と友情と絆を描いた本作の“もうひとつの主役”は、舞台となる美しいマーゲイトの街並みと魅力的な映画館の建物。その撮影の舞台裏を、メンデス監督らスタッフの談話から紐解いていこう。

『女王陛下のお気に入り』(18)でアカデミー賞主演女優賞に輝いたオリヴィア・コールマンが主演を務め、マイケル・ウォードやコリン・ファース、トビー・ジョーンズら英国映画界を代表する実力派キャストが揃った本作。映画館”エンパイア劇場”で働く、心に闇を抱えるヒラリー(コールマン)。彼女の前に、夢をあきらめて映画館で働くことを決意した青年スティーヴン(ウォード)が現れる。その出会いをきっかけに生きる希望を見出していくヒラリーだったが、時代の荒波が2人に想像もつかない試練を与えることとなる。

本作の舞台となっているのは、ロンドンから東に約100キロ離れたケント州北岸の町マーゲイト。風景画家のウィリアム・ターナーが愛した地としても知られており、メンデス監督は「マーゲイトには多くの画になる景観があったので、ここに決めました。ターナーが欧州随一の空に惹かれて代表作を書いた場所であり、T.S.エリオットが『荒地』を描いたのもこの場所です。マーゲイトにある懐の広さのようなものが、映画に詩情と美しい画を与えてくれました」と明かす。

当初は複数の町を使って撮影を行う予定だったが、最初にロケハンに訪れたマーゲイトでほとんどのシーンの撮影が行われることに。その決め手となったのは、物語の核となる“映画館”にふさわしいロケーションがあったから。マーゲイトビーチに面した通りにある、この町で100年以上の歴史を誇る遊園地が併設された「ドリームランド」という施設。その元映画館だった建物のアール・デコ様式の外観にインスパイアされるようにして、メンデス監督は脚本の書き直しやシーンの追加を行なったという。

元映画館の建物はすでにビンゴ会場に改築されていたのだが、マーク・ティルデスリーが指揮する美術チームにより大規模に改修。美しい映画館エンパイア劇場へと生まれ変わった。しかし海に面した「ドリームランド」には、物語の重要な要素となる広いアール・デコ調のロビーがなく、美術チームは「ドリームランド」から1ブロックほど離れた広い空き地にロビーのセットも建築。そうした工夫によって、映画館の建物とロビーがそれぞれ同じ海岸線を臨むという映画の魔法を実現させた。

本作で撮影監督を務めた名カメラマンのロジャー・ディーキンスは、イングランド南西のデヴォン州トーキーの生まれ。東端のマーゲイトとは正反対の立地にあるが、ディーキンスは「私も海沿いの町で育ったので、懐かしく感じることがたくさんありました」とマーゲイトでの撮影を振り返る。そして「ファインダーから覗いていると、なにかとてもすごいことを最初に目撃しているような気になります。マーゲイトで撮ったことで、この映画にリアリティが生まれました」とコメント。ディーキンスは本作で第95回アカデミー賞の撮影賞にノミネート。美しい街並みをより美しく捉えた映像に、是非とも注目してほしい。

また今回、メンデス監督をはじめとしたスタッフ陣が撮影現場の秘密について語るインタビュー映像も入手。発売されるブルーレイ＋DVDセット(ブルーレイのみに収録)のボーナス・コンテンツには、この映像も含めて制作の舞台裏を収めたメイキング映像が収録されている。本編を観た後にチェックして、『エンパイア・オブ・ライト』の世界により深くひたってみてはいかがだろうか。

文/久保田 和馬